ブラジル大統領の弾劾報道のなかで「大統領不在の中での五輪開催という異常事態」という表現が、複数の報道において見受けられました。

 しかし、五輪準備を指導するIOCの調整委員長は、大統領弾劾問題は「五輪に打撃を与えるものではない」と公言しています。

 オリンピック大会は、開催都市とNOC、OCOG(組織委員会)によって準備されるのであって、IOCは、大会開催に政治権力が介入することを一貫して警告してきました。

 そのため、オリンピック憲章には、開会式・閉会式に関する規定において、国家元首の役割を次のように規定し縛りをかけています。

「オリンピック憲章 第5章オリンピック競技大会 Ⅳ.プロトコル(儀礼上の約束事)」
開会式では、オリンピック競技大会は開催国の国家元首が以下のいずれかの文章を読み上げ、開会を宣言する。(閉会式も同様)
オリンピック競技大会の開幕においては
「わたしは、第○○回近代オリンピアードを祝い、(開催都市名)オリンピック競技大会の開会式を宣言します。」

 この宣言しか発言してはならないと釘を刺しています。
 さらに、元首のみならず、すべての政治関係者が大会中に演説をすることを、下記のように禁止しているのです。

「すべての式典を含むオリンピック競技大会の開催期間中、政府またはその他の公的な機関の代表、その他の政治家がOCOGの責任下にある競技会場において演説することは、いかなる種類のものであれ認められない。開会式と閉会式ではIOC会長とOCOGの会長のみが式辞を述べる権限を有する。」

 したがって、大統領がオリンピック大会の主役であってはならないのです。

 あの、ナチス・ドイツが支配した「ベルリン五輪」や、ボイコット合戦に翻弄された「モスクワ五輪」と「ロスアンゼルス五輪」など、過去に政治権力が介入してオリンピック理念が踏みにじられた苦い経験があります。

 また、オリンピック大会は、都市開催であり、サッカーWカップのような国開催や国対抗戦ではないことを、IOCは一貫して主張しています。

 IOCは、オリンピック憲章において、次のように規定しています。

 IOCとOCOG(組織委員会)は、国ごとの世界ランキングを作成してはならない。OCOGは各種目のメダル獲得者と、賞状を授与された選手の氏名を記す入賞者名簿を作成し、メダル獲得者の氏名をメインスタジアム内の目立つところに、恒久的に展示するものとする。

 このように、国別メダル数の比較はIOCが発表しているのではありません。国別のメダル獲得数を最大の価値と考える人たちのために作られた外部作成の一覧表です。

 そういえば、IOCのバッハ会長はリオ五輪で初めて「難民五輪選手団」を編成すると発表しました。それを国連の潘基文事務総長が絶賛しています。いいですね。

 さらに、英国の陸上界英雄、あのセバスチャン・コー(ロンドン五輪組織委員会会長)は、多くの西側諸国がボイコットした旧ソ連の「モスクワオリンピック」に強行出場して優勝しました。
 その時の表彰式では、英国の国旗・国歌ではなく、五輪旗と五輪賛歌で臨みました。この話も、IOCは選手を国代表とは考えていない逸話です。

 マスコミの皆さん、オリンピック大会は国家元首が主導する国別対抗戦ではなく、人類の祭典であり都市開催であることの意義をもう一度国民にアピールしてください。