IOCは、オリンピック競技大会(以下、五輪)の開催都市決定を、国代表ではない個人の「無記名投票」にこだわってきたため、買収、裏金などの不正を防ぎ切れなかったというのが、私の意見です。

◎ 招致活動は集票の戦い
 オリンピック招致は、まず、希望する都市が申請ファイル(最初の大会計画書)をIOCに提出し、認められれば、「申請都市」(Applicant City)となります。

 次に、「申請都市」は、IOC理事会において「立候補ファイル」等を評価され、3~4都市の「立候補都市」(Candidate City)に絞られます。

 現在、議論となっている「国際プロモーション」は、立候補ファイル提出後に解禁になります。この表舞台のプロモート自体は重要であり、都市のアピールは勝敗に影響することは事実です。

 しかし、それだけでは、集票につながらず、別のロビー活動が必要になります。

 なにも不法行為だけではありません。

 例えば、「オリンピック・ソリダリティー(発展途上国を支援する運動)」を理由に、ODA(政府開発援助)をアフリカに増やすなど、外務省が五輪招致を側面から支援します。OECD加盟国は公然と行っていることです。

 さらに、行われているのが、例えば、今回のように世界陸上競技大会に資金を援助するなど、陸上に関係するIOC委員の賛同を得ようとすることも、公然と行われています。
 今回もイスタンブールから、資金を拠出した東京に負けたといわしめた戦略です。

 一方で、ある程度グループ化して投票行動をしているIOC委員もあります。そのグループ票や個人票を売り込みに来る有象無象の企業があることも事実です。
 今回、問題になっているコンサル会社も向こうから売り込んできた数多くの一つだと、JOCは言っていますが、まず、売り込み企業は余程でなければ、門前払いするものでしょう。

 長野五輪では、様々な手立てによって集票した票読みが、開票してみたら、予想以上に少なかったという笑えない話が残っています。

 過去に、ソルトレークと長野の招致合戦における委員への過剰な接待が批判され、IOCは、ソルトレーク五輪の際に、関係した委員を粛清し、厳しい「行動規範」を策定したことは周知のところです。

 この「行動規範」には、国際プロモーション、贈与、IOC委員との接触、などについて厳しく制限事項が記載されていますが、にもかかわらず、金銭に伴う不正は、軽重こそあるものの、ずっと続いているのはなぜでしょう。

◎ IOC委員の不正が起きる背景
 IOCが、五輪を、国開催ではなく、あくまでも都市開催にこだわってきた訳は、政治や国家の介入を極力限定し、スポーツの独立性と自治に不可侵を主張し続けてきたからです。
 
 IOCは、五輪競技大会を、国別対抗戦ではなく、参加選手個人の戦いであることを、近代五輪の根本にしてきました。

 ついでに話をすれば、IOCは、勝手に国別メダル数の比較表が作られていることについて無視をしています。五輪憲章には「IOCとOCOG(組織委員会)は、国ごとの世界ランキングを作成してはならない。」と定めていることをご存知ですか。

 その理念のために、五輪開催都市の決定を、国代表ではないIOC委員による無記名投票にこだわってきたのです。

 ちなみに、IOC委員は、定員115名(当時は103名)であり、内訳の規定は、以下の通りです。
 ※ 大陸別(ヨーロッパ44名、アジア23名、北南米18名、アフリカ12名、オセアニア6名)
 ※ 定員内に、国内オリンピック委員会(NOC)会長、選手委員、国際競技連盟(IF)会長が15人づつ選出されて構成

 国を代表していない個人資格のIOC委員が、何を根拠に投票すると思われますか。
 
 一応、IOCは事前調査による公式の「評価表」を参考にせよと言っていますが、評価表の順位は投票数にほとんど影響していません。

 招致活動に関わった幹部の人は、「ベストな提案で招致を獲得したと確信している」と言いますが、招致戦略に苦労した人は苦笑しています。

 すべてとは言いませんが、IOC委員には、自分や所属団体に関する利権(金銭を含む)が優遇されるかを最も重視する人が多く、様々な要因を総合的に判断して投票します。

◎次回は、IOCにも責任があることを問いかけます。