東京五輪の招致疑惑について、国会やマスコミが、竹田JOC会長を対象に追求を続けているところですが、私のこれまでの認識では、想像通りの進捗をたどり、ほぼ結論まで見えてきました。
 私は、独自の視点でこの問題に言及してきましたが、今回の第四弾は、このまま推移していけば、どのような結論に至るのかについてご説明します。

◎ 五輪開催権は取り上げられない
 現在、IOCのバッハ会長は、東京五輪招致を巡る贈収賄疑惑について、「腐敗や不正には厳しい立場で臨んでおり、不正を正すためにはどんな手段でも取る。」と語気を強めています。

 その一方で、日本側の「正式な業務契約」という報告に理解を示しながらも、フランスの司法当局の捜査に引き続き協力し、IOCとしては独自に調査する考えを持っていないという意向も示しています。

 もし、フランス司法当局が、日本側の買収や裏金があったと証拠をもって認定したら、IOCは、どのような処分を考えているのでしょう。

 まず、2020年の東京五輪の開催権を取り消すということは、ありえません。

 確かに、「オリンピック憲章」には、次のような文章があります。

第6章 対応措置と制裁、規律上の手続きと紛争の解決
  1 オリンピック・ムーブメントに関するもの
  1.6 開催都市、OCOGとNOC
    オリンピック競技大会の開催権の取り消し(総会)
『Withdrawal of full right to organize the Olympic Games (Session)』

オリンピック憲章(93頁) 

 すなわち、IOCは、オリンピック・ムーブメントに反する重大な違反には、開催都市の開催権を総会において取り消すことが出来る、という規定に読めますが、その基準等は憲章上に示されていません。

 それ以上に、近代オリンピックになってから、1940年東京五輪の返上を含め、戦争が原因で、やむを得ず中止になったケースは3回ありますが、それ以外で中止はなく、まして開催権を取り消したことは、まったくありません。
 
 様々なサバイバルがあっても、IOCとしては厳重な処罰はしたとしても、開催都市の開催権を取り上げることはありません。

 私も、今回の疑惑騒動を正当化するつもりは毛頭ありませんが、五輪の招致段階において、様々な形でお金が動くことは、これまでも公然の秘密といわれてきました。

 この原因には、IOCにも責任があると言いたいのです。

 国を代表せず、個人資格で投票できる100名程度のIOC委員が、開催都市に投票するときは、自分の所属団体(競技種目、NOC等)の利益や、個人的な利得が基準になることは想像に難くありません。

 過去に、長野とソルトレークのIOC委員への接待合戦を受けて、IOCは委員の粛清と規律強化をしました。その代わりに、IOCは「立候補都市の評価表」を作成し、IOC委員の投票に資するようにしました。

 しかし、2016年招致では、リオネジャネイロの評価が最下位だったにもかかわらず、開催都市に決定しました。結局、IOC委員の投票行動には、全く反映しなかったのです。(このことは、前回の「第三弾」で詳解しています。)

 結局、「都市評価」を選考に反映させるためには、評価を点数化して、各都市に加点して、アドバンテージをつけるなどの改革をしなければ、100票の集票に向けた様々な働きかけが収まるはずはありません。

 IOCも、今の無記名投票方法には、不備を感じているはずです。そのIOCが、東京の開催権をはく奪できると思いますか。

 実は、今のIOCが対応している危機感はそれどころではありません。8月に迫ったリオデジャネイロ五輪の開催には、残っている課題があまりにも多く、全力で取り組んでいるところです。

 それどころか、この疑惑の発端となった、ロシアの陸上競技選手を中心に行われた組織的なドーピング違反問題は、いまだ解決されておらず、6月までに解決しなければ、ロシア陸上選手がリオ五輪に参加できない事態が想定されています。

 対して、ロシア政府は、この事件は、アメリカの陰謀だとし、陸上を失格にしたら、リオ五輪をすべてボイコットするという強硬意見まで匂わせています。

 そんな今の時期に、次の東京五輪の疑惑などを持ち出さないでほしいと、IOCは思っているはずです。

 いずれにしても、フランスの司法当局が現在捜査中であり、IOCはその結果報告をすぐに受けたとしても、リオ五輪後に対処することになります。
 
◎ 室伏選手が、現役復帰する理由
 フランス司法当局の調査結果にもよりますが、今回の招致疑惑に対してIOCは、少なくても竹田JOC会長に対して、IOC委員の資格停止処分か資格はく奪を下す可能性があります。

 その可能性が高いとわかれば、処分を下される前に、竹田会長が自ら辞任する可能性もあると思います。

 もし、日本人で唯一の竹田IOC委員が処分されれば、定員115名のIOC委員の中に、日本人は一人もいなくなることになります。

 中国には3名、韓国は2名のIOC委員がいるのに、なぜ、日本は1名しかいないのかと、これまでもスポーツ外交力の脆弱さを憂いていたのに、0名になれば論外であり、極めて遺憾です。

 思い出すのは、2016年五輪招致が失敗したあとに、当時の石原知事が、スポーツ界の外交力の弱さを敗因の一つに挙げていたことです。

 あの後から、文部科学省とJOCは、スポーツ競技者を海外に送り、国際外交力を高める試みを始めましたが、まだ奏功していません。

 そこで、もう引退するとみられていた室伏広治氏は、竹田会長のIOC委員辞任を見越して、リオ五輪前のIOC総会で投票されるIOC選手委員の補充選挙に再立候補するために、現役続行を表明したのだと、私は推察しています。
 選手委員の15名枠に再チャレンジしようとしているのではないでしょうか。

 実は、室伏選手の挑戦は3度目になります。2008年北京五輪では落選しましたが、12年ロンドン五輪では最多票を獲得しました。しかし、JOCが日本選手団に配った投票説明書が選挙違反に当たると指摘され、当選が無効になった苦い経験があります。

 オリンピックにおいてIOC委員の存在は、軽いものではなく、スポーツ外交官と言っても過言ではありません。

 今回の疑惑問題が本当であれば、日本は、スポーツ外交力の弱さを、他のネゴシエーションで補完しようと無理をしたと、世界からみられても致し方ありません。極めて残念なことです。