東京都は、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会(以下、東京五輪)のため、臨海部に整備する新規恒久施設の大会後運営計画(中間案)を発表し、都民から意見を募集(今月8日締切)しました。

東京オリンピック・パラリンピック準備局のHPより

 私は、長年にわたり、都立スポーツ施設(東京体育館、駒沢オリンピック公園総合運動場等)の管理運営に関与してきたものとして、あまりに違和感があるため意見を送りました。

◎ 私の提言は以下の通りです。

 貴局の「新規恒久施設の施設運営計画案」を拝読しましたが、スポーツ施設の管理・運営の考え方が、旧態依然であり、アドバイザリー会議を開いて議論するほどの内容ではありません。

 すでに数十年も前から、我々が公共スポーツ施設の建設計画を、行政内部に説明し理解を得るために作った資料と、まったく同じです。

 その提案書の作り方は、総花的に活用法を書くことです。「多機能な活動を行う」「誰でも使える」「常時使われている」をキーワードにして図表を作ると、この通りになります。

 一見、豊かに利活用されるような絵コンテを書きますが、資料がきれいになっただけで昔からの提案内容と、ほとんど変わりません。

 公共スポーツ施設の管理は容易ではありません。あのアクセスのよい「東京体育館」ならば、指定管理者の努力もあり、利用効率は結構高いのですが、それでも年間収支比率は約60%です。

 あの臨海部において、活気を呈するのは数年のみです。その後の利用効率はどんどん下がっていくでしょう。

 特に、「アクアティクセンター」については、相当懸念しています。

 東京は、1990年「東京体育館(プール付き)」が改築され、1993年に港湾局が「辰巳国際水泳場」を作りました。しかし、1996年には、習志野に「千葉県国際総合水泳場」ができ、現在も首都圏で開催される国内外の水泳競技大会は、辰巳と習志野で争奪戦をくり広げています。

 その上に、新しい国際基準の水泳場がもう一つできれば、どのようにすみ分けるのですか。大会数や利用者数は変わりませんので、取り合いが激化するだけです。

 また、当該資料をみると、隣接する辰巳国際水泳場との役割や関係が書かれていません。辰巳の存続について、現在は、検討を避けているようですが、その解決を踏まえた両施設の役割・連携の議論がなければ、アクアテックセンターの利活用を単独で結論付けることはできるわけがありません。

 今では、遅れた提言になりますが、2001年の福岡県世界水泳大会では、立派な仮設プールで成功しました。東京五輪でも、なぜ仮設化を検討しなかったのか悔やまれます。

 また、民間運営といっても、「指定管理者制度」か「PFIのコンセンション方式」ぐらいしか想定していないと思いますが、このような総花的利用計画では収支比率が厳しく、民間事業者は委任(委託)経費を相当にもらわないと、引き受けるところがないでしょう。

 普通財産化ぐらいは、検討しているかもしれませんが、公の施設を民間に貸与や移譲することは想像もしていないと思います。

 これまでも、駒沢オリンピック公園総合運動場は、突貫で五輪仕様に作った、使い勝手の悪い構造をほとんど改修せず、朽ち果てるまで使い切ることを、1948年のレガシーと言ってきましたが、どれほど苦労してきたかわかりますか。今回も同様の道を歩む危険性があります。

 他の施設についても、指摘をしたいのですが、今回は省略します。

 なお、批判だけでは失礼なので、私なりの利用案の一例を提案しておきます。

 臨海部は、五輪後に住民が急増しますので、学校の新設が必要になります。区との調整は必要ですが、例えば、アクアテックセンターは五輪後に観客席を減設するわけですから、その空いた空間に、小・中学校(グランドを含む)を併設するのがいいと思います。もっと言えば、初めての小・中・高校の一貫校まで考えられます。

 そうすれば、昼間は授業や運動部活動と市民活動に利用して、授業時間以外の夕方以降や学校休日(夏休み等の長期休暇を含む)は、当該資料を中心にした展開がほとんどできます。そう主張すると、学校教育に施設を売り渡すのかと反対する人がいますが、まったく違います。

 釈迦に説法ですが、地方財政の効率化から、行政課題の複合化・協働化が求められていることを踏まえれば、学校施設は、これまでの地域への学校開放型から「公共施設の借用型」に発想転換すべきと思います。

 さらに言えば、体育コースを持っている「都立駒場高校」などを、施設サイドに移転させることも有効です。そうすれば、移転後の都内一等地の有効活用も、都の利益を生みます。

◎ 新規恒久施設への建設費批判を受けて
 東京都は、施設整備経費の見積もりが当初の6倍に膨張し、さらに、総額で2兆~3兆円は掛かる懸念が言われはじめたため、早々にレガシーを打ち出し都民に理解を得ようとしているように見えます。

 そのことには賛意を示しますが、中間案を見る限り、将来を見越したイノベーションが全然感じられないことにがっかりしました。これでは、経費負担の言い訳づくりにしか見えません。

 最近、舛添知事の疑惑に世間(マスコミ)は謀殺されていますが、そのお蔭(?)で、五輪招致コンサル問題や、五輪経費1.8兆円問題などの議論が影を潜めています。

 レベルの低い知事問題は、五輪準備にとって大変迷惑で不愉快な話です。

 早く決着させて、将来に禍根を残さないよう、五輪準備問題に取り組むべきではないでしょうか。