東京オリンピックのゴルフ会場問題は、誰が悪いと思いますか?

 まず、ゴルフ会場の選考過程を振り返って説明します。

 2012年2月23日に、「申請ファイル」をIOCに提出した時は「若洲ゴルフリンクス」ですが、2013年1月7日に「立候補ファイル」を提出する前に、「霞ヶ関CC」に変更されています。(変更の経緯は、公表されていますので省略します)
 その会場計画については、IF(この場合は、国際ゴルフ連盟《IGF》)の同意書を必ず添付しなければなりません。

 ですから、立候補ファイルの作成時に、JOC、招致委、IGF、日本ゴルフ協会(JGA)は、すべてこの定款の細則を承知していたはずです。
 オリンピック憲章は一貫して男女差別を禁止してきた経緯があり、1996年のアトランタ五輪では、会場の差別問題でゴルフ競技が復活しなかった経験があったわけですから、見落としていたでは済まないでしょう。

 それを軽視した、あるいは見落としていたとすれば、真っ先に謝らなければならないのは、専門家の結論を受けたとはいえ、最終判断をした都の招致委員会でしょう。(まだ、組織委は無かったのだから・・)

 また、IOC本部においても、この正会員規約の存在を知らされていなかったのか、あるいは、当時はあまり問題視していなかったのでしょうか。
 IOCは、総会において、ゴルフ会場も含め一括承認しているのですから、知らなかったとしても、無条件で承認したことは当時の間違いでしたと、まずは、日本側に陳謝してしかるべきです。さらに、当時の同意書を書いたIGFに対しても、規約に関する情報提供を怠ったとして非難すべきではないですか。

 2012年当時は、確かに、差別禁止を強化した「アジェンダ2020(2014年11月成立)」は、ありませんでした。しかし、アジェンダをきっかけに、この程度の規約も差別禁止に該当するとなったのであれば、アジェンダを作ったIOCは、その新基準をもとに、すべての会場について開催都市に再点検を指示すべきだったでしょう。(参考のために、IOCは、2022年冬季五輪開催の北京市からは、差別禁止条項を「開催都市契約」に追加していますが、東京大会との契約書には記載されていません)

 それを、今になっていきなり、日本側の選考過程に齟齬があったようなIOCの指摘は、極めて違和感を覚えます。

 さらに、組織委にしても、IOCからの指摘を受けて、アジェンダによって男女平等の考え方が変わっていたと弁解するなら、霞ヶ関CCへの規約改正について、もっと早く検証しなかったのか、その理由を説明すべきでしょう。

 では、これまでの「オリンピック憲章の根本原則」に書かれている男女差別について、改めて検証してみましょう。

 2003年までの憲章では、「オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく」と書かれているだけです。

 それが、2004年からは「人種、宗教、政治、性別、その他の理由に基づく国や個人に対するいかなる差別」と、性別が特定されます。

 さらに、2014年からは、アジェンダを受けて「このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。」と改正して、新たに、肌の色、性的指向、言語、ルーツ、財産、出自の6つが特定され加筆されています。
 この際に、最も注目されたのは、性的指向(LGBT等の性的マイノリティ)だったのです。

 憲章改正を総じて解釈すれば、オリンピック憲章は一貫して男女差別を禁止してきており、人種・宗教・政治とともに、根本原則の古くからの原点でした。その上で、アジェンダによって男女平等が強調されたのは、オリンピック競技での女性参加率と男女混合種目の採用です。

 そのアジェンダ2020には、追加条件が次のように書かれています。
【提言11】男女平等を推進する
1 IOCは国際競技連盟と協力し、オリンピック競技大会への女性の参加率50%を実現し、オリンピック競技大会への参加機会を拡大することにより、スポーツへの女性の参加と関与を奨励する。
2 IOCは男女混合の団体種目の採用を奨励する。

 この提言のきっかけは、ソチ冬季五輪(2014年2月)の際に、ロシアが「反同性愛法」の成立にヨーロッパ諸国が反発し、開会式への出席を各国首脳がボイコットした経緯があったことです。
 その後、女性の参加率と男女混合種目の重視のため、東京大会の追加種目(5競技18種目)は、すべて男女均一となっています。
 特に、競技としては似て非なる野球とソフトボールが、五輪種目に復帰するため、同じ競技にならざるを得なかったことも、このアジェンダに沿ったものです。
 
 このようなアジェンダを含む憲章改正や競技場決定の手続きを踏まえれば、今になって、霞ヶ関CCの規約の存在に問題ありと、総理大臣を始め五輪大臣、都知事、組織委など、すべての関係者が異口同音に会場を批判することは、いかがなものか。

 なお、スポーツ競技に「男女区別」は必要ですが、「男女差別」はすべてに反対であることは、いうまでもありません。

 しかし今回の問題に関していえば、東京オリンピックのゴルフ競技の開催には、この正会員規約はまったく機能しないわけで、霞ヶ関CC理事長が、「(五輪会場を)頼まれて受けただけ」で、「定款も事前に提出している」と反論し、我々が、なぜ批判されなければならないのかと不満を漏らす気持ちはよくわかります。
 さらに、理事会後には「政局絡みで急にこんな事態になったのは、我々としては迷惑だし、困惑している」と不満を漏らしたことも理解できます。
 
 男女差別が、オリンピック競技に対する影響の有無ではなく、オリンピックは理念のムーブメント(運動)なのだから、男女不平等の規約を持っている競技会場を使うこと自体が根本的に問題だというならば、土俵上が女人禁制になっている国技館に、オリンピック競技(女子ボクシング)の会場を設定することの方が、もっと批判されるべきでしょう。(2月4日「国技館が五輪競技会場になれるのか!」参照)

 今回のコルフ会場問題は、どこが最も非難されるべきなのか、関係者(団体)が、これまでの経緯をもとにきちっと検証すべきではないでしょうか。