レスリング金メダリストの伊調選手が、指導者からパワハラを受けたとして、関係者が内閣府にいきなり訴えたことは違和感を覚えます。
 イメージ的には、いきなり最高裁に訴えた行動に感じるのです。

 内閣府の「公益認定等委員会」とは、公益認定法に基づいて、公益法人等の審査や改善勧告を任務とする組織です。決して、個別の対人トラブルを裁くところではありません。

 すでに、柔道選手への暴力・パワハラ事件の前例があります。
 2012年に、15人の女子選手が、コーチの暴力等を全日本柔道連盟(全柔連)に訴えても改善されないとして山口香氏(筑波大学)に訴えました。山口氏は訴えた選手の実名を伏せたまま、JOC(日本オリンピック委員会)に告発したのです。

 その後、JOCは、オリンピック憲章に基づくオリンピック委員会の使命と役割をもって、事態への対応と組織の改善を主導しました。
 その結果、暴力事件だけでなく、JSC(日本スポーツ振興センター)からの助成金の不正受給など全柔連の不祥事が次々と明らかになります。

 JOCの働きかけがどれだけ奏功したかの評価は別にして、公益法人団体としての様々な問題点が明らかになることによって、公益認定等委員会が勧告を出すことに至ります。
 その勧告文のなかには「公益法人が国民の信頼を得て活動するためには、(中略)傘下の法人の自己規律の確保を促すために統括団体・全国団体の役割は大きい」として、JOCや日本体育協会(日体協)等の主導的役割に期待しています。

 したがって、スポーツ界の自治とガバナンスにかかる問題は、まずもって、JOCか日体協にあるガバナンス部門等に訴えるべきです。それともなければ、JOCによって設置された「(公財)日本スポーツ仲裁機構」に訴えることもできるはずです。

 今回のように、現在のところ対人関係のトラブルと思われる事案を、真っ先に政府機関に訴えるべきではないと思います。
 また、JOCや日体協は、スポーツ界の自治、自律を守る立場として、まずは我々に訴えてほしいと声明すべきではないでしょうか。