まず、運動部活動は、単に教員の働き方改革だけの問題だけではありません。長年にわたり、中教審答申や学習指導要領での取り扱いの変遷、中高体連の大会基準、スポーツ推薦入試、学校選択制の導入、特色ある学校づくり政策、学校開放制度の硬直化、JSCの給付見舞金制度(学校管理下)、さらに、日本の競技力向上政策、対外試合参加基準や国体参加基準の低年齢化などが影響しており、改革の視点は枚挙にいとまがありません。
 運動部活動の在り方は、長年にわたり継続されている懸案事項ですが、運動部活動にこれまで苦言を呈してきた一人としては、またぞろ同じような堂々巡りが始まったなという印象です。

【懸念その1】
 昨年、現政権の目玉政策「働き方改革」において、教員の長時間労働の是正が指摘され、その元凶になっている「運動部活動」を改革すべきとされたことで、文部科学省とスポーツ庁が早速動き始めました。

 今回の動向は、まず、文科省が「学校教育法施行規則」の一部を改正し、平成29年度から、中学校におけるスポーツ、文化、科学等に関する教育活動に係る技術的な指導に従事する学校の職員として「部活動指導員」の配置を省令で定めました。

 そのうえで、文科省は、平成30年度の概算要求に、1校あたり3人程度の「部活動指導員」を計画的に配置するとして「部活動指導員配置促進事業」の新規予算を、財務省に15億円(配置人数:約7,100人分)要求しました。
 
 全体経費は、国の補助割合は1/3だけであり、都道府県と市町村が1/3ずつを負担した合計額で、報酬等を賄うというものです。

 しかし、現在、国内の公立中学校は約9,700校あるので、この概算要求では、すべての学校に1名も配置できません。さらに、対象者は運動部だけでなく、文化部、科学部も対象です。

 文科省は、初年度は全体計画の4分の1と弁解していますが、この人数規模では、運動部活動の指導員を十分に配置して活用できるまで、何年かかるかしれません。

 それどころではありませんでした。この小規模の概算要求を、財務省は査定によって、約5億円(配置人数:4,500人分)に削りました。

 財務省査定の5億円を4,500人で単純に割ると、1人11万2千円であり、都道府県と市町村が同額を負担すると、年間約33万6千円となります。しかし、この報酬等の「等」には、交通費、出張旅費、所得税、ユニフォームや用具などの指導用実費を含んでいますので、多く見積もっても年間報酬は実質25~28万円程度でしょう。

 学校の部活を実施する期間を年間30週として、1週間の指導時間をガイドライン(平日は4日各2時間、土日はどちらか3時間)に合わせると、年間330時間となります。これを単純に割ると時給約750~850円程度です。

 さらに、部活動指導員の職務は、改正された「学校教育法施行規則」に詳細示されています。
 http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/hakusho/nc/1383344.htm 
 高い指導能力だけでなく、大会・練習試合の引率責任はもとより、任用前後の定期研修と活動計画や活動実績の報告義務も求められています。
 
 これでは、報酬ではなく、ボランティアへの実費払い程度といえるでしょう。

 いうまでもなく、時給だけで「部活動指導員制度」の設置を評価するつもりはありません。しかし、この経費で、教員業務を代行できるような指導者がどれだけ確保できるのでしょうか。

 また、スポーツ庁は、同時に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」の作成会議を立ち上げて検討を始めました。

 その検討では、部活動の指導・運営体制、部活動指導員の配置、適切な指導実施など、様々な対策を描いていますが、特に注目すべきは、「適切な休養日等の設定」です。

 要約すると、次の通りです。
 *部活実施日は、基本的に、平日の1日を休養日、土日のどちらかを休養日とする。
 *部活実施時間は、平日を2時間程度、土日等の休養日を3時間程度とする。

 実は、このような数字目安は、平成9年に文部省の「中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査研究協力者会議」がまとめた「運動部活動の在り方に関する調査研究報告書」において、中学校の運動部では、学期中は週当たり2日以上の休養日を設定すると通知していました。

 しかし、まったく奏功しなかったことは、これまでの学校関係者が十分承知しています。

 さらに、平成14年度から完全学校週5日制を実施されたときも、運動部活動の抑制が議論されたことがあります。
 学校5日制は、学校、家庭、地域社会の役割を明確にして、子どもの「生きる力」を育むことを目指すために実施するとして、土曜日は家庭や地域に返すことが主旨だから、学校の部活動を控えるようにと文科省が指示を出したことがあります。
 そうしたら、学校現場から反論が噴出して、文科省は、しぶしぶ土曜日に部活動を認めることに戻したという経緯がありました。

 また、昭和62年には、注目すべき裁判がありました。
 ある中学校のサッカー部で、レギュラーになれない部員たちが、冬期休業中に市営グラウンドで自主練習している時に、2年生が急性心不全で死亡しました。その際、旧日本体育学校健康センター(現在の日本スポーツ振興センター)が、学校管理下とは認められないとして、災害共済給付見舞金を支払わなかったことで、遺族が損害賠償を請求した事故裁判です。
 この裁判は、平成3年に高裁で、請求棄却として結審しています。
 その判決理由は、当該練習が学校の部活動計画表に記載されていないことと、顧問教員も不在であった。学校管理下と認定されるためには、自主的練習であっても、学校が認識し正規の練習計画と連動していることが必要であると指摘しています。

 この裁判判例は、極めて注目すべき判例です。

 例えば、今後、活動量を抑制された中学生が、部活動指導員や顧問教師に黙って、休養日に校外で運動部として自主練習をしていた時に事故が発生した場合は、学校管理下と認められず、災害共済給付制度が適用されません。さらには、休養日に練習したいと申し出た部員たちに対して、指導員や教師が、例えば「俺は聞かなかったことにするから、校外で勝手にやればどうか・・・」等の発言をした場合も、同様に学校管理下になりません。

 おそらく、同様の事故が起こると、私は強く懸念します。

 また、すでに各地では、地域との連携による事業が始まっています。
 例えば、岩手県で、中学校の平日部活動は、午後4時15分から30分間だけ顧問教諭が指導しているが、以降はスポーツ少年団として活動してスポ少の指導員が指導しています。オフシーズンの土日の練習もスポ少の練習としています。
 これは、どこまでが学校管理下でしょうか。スポーツ少年団としての活動を学校管理下として認定されるのでしょうか。