日本のスポーツは、明治初期に西洋から学校に持ち込まれ、教育の手段として普及してきました。そのため、日本人は、学校の体育授業と、無料で指導者付きの運動部活動を通して、等しくスポーツを経験し享受できたことを顧みると、日本のスポーツ振興策は奏功したといえます。

 しかし、戦後の学校管理下の運動部活動は、長年にわたりスポーツ団体から、競技力向上に向けた強いプレッシャーを受け、文部省も部活の必修クラブ化や大会参加基準などの対策に失敗し続けて、徐々に制度疲労を起こしてきました。
 それでも対策を続ける文部省は、平成9年から、外部指導員の導入と活動量の抑制を提言しましたが、結局、一部の成功例を除いて根本的な解決ができず現在に至っています。

 したがって、現在の運動部活動の現場は、部活に生きがいを見いだす顧問教員や外部指導員によって過度な勝利主義が常態化した「黙認された部活動」と、名ばかり顧問のもと生徒に任せっきりの「放任された部活動」に分離しています。

 今後の運動部活動制度を考えるためには、「教員の働き方改革」の視点だけでなく、「学校管理下の限界」や「スポーツ機会の平等性と多様性」などを踏まえた、抜本的な制度設計を検討すべき時期に来ていると思います。

 では、今後どのように運動部活動制度を改革すればいいのか、長年、自分なりに考えてきた制度設計を提言します。

第一は、スポーツ活動環境を、単線型から複々線型にすることです。
 特に中学生の場合は、スポーツ活動に参加する時に、活動条件や参加目的などで、学校部活動だけでなく、地域スポーツクラブ、民間スポーツクラブ、少年団などを、自由に選択できる複々線化を目指すことです。
 甲子園出場の野球部をみると、100名以上の部員を抱える学校が多いのは、学校野球部以外の選択肢がないためで、まさに反面事例です。
 ちなみに、私が昔、駒沢オリンピック競技場で、「少年サッカー教室」を企画し小学5・6年生を公募したところ、小学校のクラブ活動では、競技レベルが低くて満足しない児童と、そのレベルに追いついていけない児童が集まり、満足している児童はほとんど公募してこなかったことを思い出します。

第二は、青少年対象の大会を、学校別から年齢別へ徐々に移行していくべきです。
 中体連、高体連の大会は、学校単位の参加となっていますが、水泳競技の上位クラスの生徒は、学校では泳がずに民間スイミングクラブで強化されて、学校名で出場しているのが現状です。ですから、水泳部がない学校でも、中・高体連に水泳部を登録しておかなければ当該生徒が大会に出場できません。
 学校以外の地域スポーツクラブや競技団体の年齢チームなど、同じ年齢層の生徒で構成するチームが参加できる大会を創設すべきと思いませんか。

第三は、再任用教員を、運動部活動の指導に有効活用していくべきです。
 60歳定年退職の中学校・高校教員も、年金支給年齢まで再任用教員(5年間)になりますが、その経験を十分に活用していません。長年、運動部活動を指導してきた教員を、運動部顧問へ専従雇用すべきです。
 人件費を査定する財務省が簡単に認めるとは思いませんが、文部科学省の頑張りはもとより、地方自治体も財源つくりを議論すべきではないでしょうか。

第四は、トップアスリートのセカンドキャリアを活用すべきです。
 スポーツ基本計画の「好循環」政策を活かし、トップ競技を終えたアスリートを、セカンドキャリアとして活用するために、国費により大学院でスポーツ指導能力を十分習得させた後に、部活動顧問や小学校の体育指導コーディネーターに任用すべきです。

第五は、運動部活動に指定管理者制度を導入すべきです。
 上記の各制度改革を進めながら、中学校の運動部活動に、地方自治法による「指定管理者制度」を導入して、指導能力の高い「指定管理クラブ(仮称)」の設立を奨励すべきです。

 中学校の運動部活動だけでなく、学校体育施設開放事業や夏季プール開放事業をはじめ、学校行事である運動会の企画・運営業務、移動教室や課外活動などを「指定管理クラブ」に委任すれば、教員の働き方改革にも十分寄与できます。
 ちなみに、学校の体育倉庫内を覗けば、一年に一回しか使わない運動会用品(入退場門等)が、最奥に埃まみれに積みあがっています。なぜ、リース方式にして運動会業務を委託しないのかわかりません。

 さらに、災害時に避難施設となる学校施設を、遠方在住の当該教職員に変わり、地元住民で構成する指定管理クラブが、学校避難場所の管理・運営を担い、地域住民の避難に迅速に対応できます。
 また、学校校庭の芝生化が普及した場合、指定管理クラブに天然芝の管理も委託できます。

 なお、これらの制度変更には、当然ながら財源問題が伴います。これまでも、運動部活動の地域化など、数え切れないほど議論されたものの、奏功しなかった主因の一つは、経費負担等によるスポーツ機会均等の条件が整備できなかったことにつきます。
 学校の運動部活動が無料ですから、子どもの参加機会を多様化しても、経費負担に大きな差が生じては不平等、不公平になります。スポーツ参加環境の経費負担の公平性については、別途の議論が必須であることは言うまでもありません。

 いずれにしても、部活指導員導入と活動量抑制という小手先の改革案だけでは、これまでと同様、大山鳴動だけに終わる懸念があります。
 学校教育活動の範囲まで踏み込んだ抜本的な改革が求められていると思います。