こんな酷暑の最悪時期に、なぜ‘20年東京オリンピックの時間設定を発表するのでしょうか。今年の日本の酷暑は世界に伝わっており、世界のアスリートが暑さの懸念を増幅させたことは明白でしょう。
 すでに、組織委員会が競技日程を決めなければならない時期に達していることは理解できても、秋に伸ばしてから発表するぐらいの配慮ができなかったのだろうか。少なくとも、時間設定だけは調整中でもよかったのではないか。
 
 特に、世界が注目していたマラソンの出発時間を、たった30分早めただけの7時スタートにしたことも不可解です。そのうえ、このスタート時間に対して、女性の元マラソンランナーが、厳しい高温多湿の気象条件は、日本人ランナーにとって有利に働くとマスコミで発言したことは信じられません。
 外国のメディアがこんな発言を聞けば、自国選手の有利を見越して、日本の組織委員会は、30分しか繰り上げなかったのかと疑われかねません。無神経な発言です。
 
 過去、日本の真夏に都心で国際フルマラソンが行われたのは、1991年(平成3年)8月23日から9月1日まで旧国立競技場で開催された「第3回世界陸上競技選手権大会」の男女マラソンだけです。
 ちなみに、最終日9月1日に行われた男子マラソンは、暑さを避けるため午前6時スタートで始まり、その時の気温が26度、湿度が73%という条件でした。
 それでも当時の日本陸連は、「東京での開催は選手の生命にかかわりかねない」として、この種目だけ北海道での分離開催が提案されたこともあったほど、当時は懸念されたのです。
 案の定、過酷なレースになり、エチオピアのメコネンや日本のエース中山など有力選手が次々とレース途中で棄権しました。その中で、暑さに強いと自負していた谷口浩美選手が優勝したことを鮮明に覚えています。
 いうまでもなく、元来フルマラソンは冬季の競技です。日本で真夏に開かれるフルマラソンは、ずっと8月の札幌マラソンだけでした。(2年前から函館市が初夏段階の7月初めに開催を始めましたが…)

 また、1984年の米国ロサンゼルス五輪は、女子マラソンが8月5日に行われて、スイスのアンデルセン選手がゴール寸前でふらふらになった映像はいまでも流されます。実は、その名の通り夏季オリンピックが7月から8月に開催されるようになったのは、商業オリンピックといわれたこの大会からです。

 当然ながら、東京のオリンピック招致活動においても、当時からマラソン等の暑さ対策が重大な懸念事項でした。
 しかし、立候補ファイルには「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」と書いています。いくら選挙運動といえども、あまりにもかけ離れたアピールだったと反省しなければなりません。

 では、どうすればいいのでしょうか。

 今に至っては、コースを北海道に変えるわけにはいきません。あとはレース時間だけですが、スタート時間を30分早めても、まさに焼石に水です。組織委員会は、出発時間を午前5時に、最悪でも6時に繰り上げることをIOCに再交渉すべきです。

 組織委員会によれば、午前7時以前に繰り上げれば、ボランティアや観客が集まらないという理由を上げているといわれていますが、それは問題になりません。確かに、ボランティアは概ね2時間前に集合をしなければなりませんが、日本では毎年、大晦日から元旦に向けて、首都圏内の電車を走らせていますので、鉄道会社に依頼すれば済むことです。
 さらに、先のロシアW杯サッカーでは、日本戦の視聴率が真夜中にもかかわらず軒並み30%を超えていたではないですか。また、若者は渋谷付近に大挙して繰り出し大騒ぎをしていました。ボランティアも観客も理解して協力してくれると思います。
 
 実は、時間の問題は、スタート時間ではなく、ゴール時間帯なのです。特に今回のマラソンコースは、ゴール手前5kmから登り坂で、専門家によれば最後の競技決戦になると予想しています。もし7時出発であれば、精魂が尽き果てる手前に、最大の山場5kmを午前9時頃に迎えることになるわけです。極めて危険といわざるを得ません。

 なお、50km競歩は、6時スタートに変更しました。このレースは4時間近くかかりますのでゴール想定時間は10時前後です。厳しいことは確かです。しかし、この競歩は、1周5kmを周回しますので、徹底的にミスト場所を走路内に設定できますので効果的な対策は一応できます。
 ならば、50km競歩を6時スタートに変更できたのに、マラソンは、なぜ7時なのでしょうか。整合性が見つかりません。

 いうまでもなく、今回は、遮熱舗装の道路整備は工事中であり、給水所の増加も検討していると思いますが、それでも、午前7時スタートであれば、リタイヤ選手が参加者の半数以上に至るかもしれません。それどころか、抗議を含めて参加をボイコットする選手が出ることも懸念されます。

 夏季オリンピック史上最悪のレースとして、オリンピック批判の最大事例として後世まで語り継がれることにならないように対策すべきです。日本としては考え得る万策を尽くしていたと世界から評価されるようにしなければなりません。経費負担をさほど伴わない5時スタート案を、今でも間に合う最大の対策として再提案すべきと思います。

 なお、観客の熱中症対策は、別途に必要なことは言うまでもありません。