金足農業高校のエース吉田投手の「球数問題」について、異論がやっと出はじめましたが、今更感がぬぐえません。この問題は、古くて新しい長年の懸案事項と言っても過言ではないでしょう。

 この大会は、公益財団法人日本高等学校野球連盟(高野連)と朝日新聞社が主催して、100回の歴史と伝統を積み重ねてきたことには敬意を表しますが、伝統と記録を重んずるあまり、多少の改善は取り組んできたものの、根本的な歪みを改善する努力を怠ってきたことは否めません。

 近年、やっと1日だけ休養日を設け、今年度から13回からタイブレーク制を導入しましたが、焼石に水とはこのことです。

 競技レベルが年々上昇している高校野球において、常勝校といわれる私学は、専用球場、各種マシーン設備は当たり前で、プロ並みのスカウト、経費免除の特待生入学、入部テストによる選手厳選などによりエリート軍団を作り上げるのは常識です。

 ちなみに、今大会に出場した56校のうち、100人以上の部員がいる学校は20校であり、50人以下は5校だけです。最高は花咲徳栄の163名ですが、ほとんどがスタンド応援だけです。

 なお、智弁和歌山は最小34名で、優勝した大阪桐蔭は63人でしたが、これらの強豪校は、厳選した生徒しか入部させず、練習の邪魔になる生徒は入れていないためです。

 そのような時代において、県下の生徒だけの金足農業高校が勝ち上がっていく姿は、判官びいきの国民が痛快感を覚えたことは当然でしょう。あの34年前に強豪校をなぎ倒した徳島県立池田高校と重ね合わせた高齢者は多かったのではないでしょうか。

 その陰で、桑田真澄氏が真っ先に吉田投手の身体を心配したのです。桑田氏は、高校時代に将来のことを考えて、直球とカーブしか投げませんでした。当時はシュートなどの有効な変化球は頑なに投げなかったといわれています。

 一般的に、変化球は肘に負担が強く、直球は肩に負担が大きくかかります。結果論かもしれませんが、夏の甲子園の優勝投手で、プロ選手として成功したのは桑田氏だけなのです。

 そこで、誰もが異口同音に主張するのが球数制限です。最も効果的な対策が球数制限であることは言うまでもありません。
 しかし、球数制限を徹底すれば、複数のエース格を養成できる大規模の野球部が明らかに有利であり、金足農業高校や池田高校などは、二度と優勝できないと反発する声があることも理解できます。

 では、生徒の将来を考えて出場条件に優劣がでない制度変更で、すぐにできることはないのでしょうか。そこで発想を転換すれば、これまで重視してきた伝統のどれかを捨てることです。

 まず、甲子園球場は憧れの球場であり、汗と涙のドラマが似合う球場であることは分かりますが、今年の酷暑は今後も常態化すると考えれば、会場をドーム球場に移すべきです。現在の日本には、大阪球場を含めて6球場あります。

 ドームであれば、選手の体力消耗をふせぐとともに、雨天順延がなくなり日程は順調に推移します。
 そうすれば、チーム数の多かった今大会の日程(休養日1日を含む17日間)でも、予備日の心配がない分、数日の休養日を設定できて、1チームの試合間隔を確実に1日以上空けることができます。

 なお、地方大会は、天候に左右されますが、本大会の参加校数(56校)の増加を継続し、地方日程を少しでも緩和して、可能な限り休養日を導入することに努力をすべきと考えます。
 
 さらに、13回からのタイブレーク制は、監督の反対があっても、11回から実施すれば微細でも効果的だと思います。それが定着すればタイブレークの戦略を考えるでしょう。

 まずは、導入可能な対策を実施したうえで、最も効果的な「球数制限」を平等に導入できる基準を議論すべきではないでしょうか。