スポーツ団体で不祥事が頻発している問題を受けて、超党派のスポーツ議員連盟が、「第三者による相談・調査体制の整備」「団体のガバナンス整備のための基準設定」「不祥事に対するスポーツ庁の関与の再検討」に関する提言書を、スポーツ庁に提出しました。
 スポーツ議連の遠藤利明幹事長は、「公益法人を所管する内閣府だけでなく、スポーツ庁や文科省が直接指導できる権限を定めたほうがいい」と強調しています。

 その提言を受けて、スポーツ庁は、早速、プロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、直接指導の権限をスポーツ庁に持たせる法改正の検討を始めたところです。

 確かに、スポーツ界の不祥事、とりわけ、スポーツ団体のガバナンス体制の脆弱さと自浄能力の低さは、目に余ります。インテグリティ(高潔性)を確保させることには、まったく依存はありません。

 ただ、この「直接指導」とは、どのような権限をさすのでしょうか。おそらく現段階のスポーツ議連やPTのメンバーは、不祥事対応に限定した指導権限というイメージではないでしょうか。

 しかし、「スポーツ団体」に対して、行政処分や改善命令を出す権限法規を、一度でも政府機関であるスポーツ庁及び独立行政法人に付与すれば、先々に、不祥事対応だけでなく、スポーツ団体への監視・調査・処分・命令等の権限拡大に至る副作用を、起こしかねないと懸念する有識者は少なくないはずです。

 オリンピックが政治の介入によって歪められてきたことは、数々の史実が物語っていますが、特に、モスクワ五輪の派遣中止に際しては、当時の日本政府が財源交付停止で脅しをかけて、派遣主張のスポーツ団体に引導を渡した事件は、日本のスポーツ史に禍根を残しています。

 だからこそ、今回のスポーツ団体の不祥事に託けて、性急に国の監視機関を作るよりも、これからのスポーツと政治は、いかに、不可侵と相互補完の関係を法的・制度的に構築できるかについて、慎重に検討をすべきではないでしょうか。

 すでに、スポーツは日本の国策となっており、「いま、なぜ国家戦略なのか」というレポートにおいて、「国際競技大会において、日本人選手が活躍することは、国際社会における先進国としての我が国の国力を明示することになる。」、「スポーツ交流は、国家間の摩擦を軽減する上で重要な役割を果たしている。我が国の総合的な安全保障に大きな効果をもたらす。」として、「そのために、将来的には、国家予算の1%(8千億円)の投資を目標とする。」と明言しています。

 現在の国際社会において、スポーツ国際大会は、すでに純粋な人間活動ではありません。スポーツ大会の価値が放つ、経済効果、国威発揚、国際戦略などの国策と一体となっており、当然ながら、スポーツと政治の関係は、相互依存・相互補完となっています。相互不可侵では成立しない現状を認めざるを得ません。

 だからこそ、前回に触れたように、「スポーツ基本法」に基づく実定法として、「スポーツ団体法(仮称)」を創設して、相互不可侵の部分を法的に定めることを、重ねて主張したいと思います。

 ここで、同じ「社会の公器」である、出版、新聞、放送に関する法規定をみてください。

 戦前にあった「出版法」や「新聞紙法」は、明らかに言論を統制・弾圧する法規として制定され、終戦後に廃止されたことは周知のところです。

 ところが、現在の「放送法」は、逆に、新憲法下で策定され、戦後の言論の自由を保障し、放送を公共の福祉に適合するようにとして法制化されたものです。その代り、自らを律するための「倫理規範」が重要であるとして、民放連とNHKが出資し組織されたのが、BPO(放送倫理・番組向上機構)であり、憲法で保障する言論の自由、政治介入を許さない独立組織として機能しています。

 特に、公共放送を担うNHKは、総務省が所管する外郭団体でありながら、権力の介入を防ぐ放送法によって設立された放送事業者です。ですから、数年前にNHKの放送内容について総務省が行政指導を行ったことに対して、BPOが、放送法で保障されている「自律」を侵害するとして批判して、国民が支持したことがありました。

 私は、この放送法とBPOを模して、スポーツ団体法とスポーツ版BPOを創設すべきであると思います。
 
 その第一段階として、「スポーツ基本法」の第5条「スポーツ団体の努力」を改正し、日本のスポーツ界を代表する、日本スポーツ協会とJOCを、統括団体としての法的地位を定め、権利主体となりうるように位置づける必要があります。

 なお、本来ならば、欧州諸国と同様に、日本スポーツ協会と日本オリンピック委員会(JOC)は一本化すべきですが、あのモスクワ五輪の政治介入によるボイコット問題をきっかけに、袂を分けた原因を考えれば容易ではないと思います。
 しかし、「スポーツ団体法」の成立をもって、スポーツ自治や権利義務を法的に保証できることを前提に、再統合に向けた議論が進むことも期待できると思います。

 さらに第二段階として、「スポーツ基本法」第5条を前提に、新たな「スポーツ団体法」を法制化すべきであり、その内容については、次回につなげて主張したいと思います。