最近のIOCは、オリンピック理念を放棄したとまでは言いませんが、明らかに棚上げをしたと思われるような言動が続いています。

 第一に、かねてより世界のスポーツ界が懸念していた、ロシアの国家ぐるみによるドーピング問題です。
 問題発覚当初から、WADA(世界反ドーピング機関)は、資格停止を科していたロシア反ドーピング機関(RUSADA)が、「国家ぐるみだった」と認めることを、資格回復の絶対条件にしていたにもかかわらず、ロシアは一切認めず、ずっと平行線をたどっていました。
 ところがIOCは、リオと平昌のオリンピックに、潔癖なロシア選手を個人資格で参加できるようにして、その資格判断を、各IF(国際競技連盟)に丸投げしました。
 それに加えて、早期にロシア問題を解決するよう、WADAにプレッシャーをかけるなど、毅然とした態度を取りませんでした。
 そのため、WADAは、「国ぐるみの謝罪」を求めることを諦めて、RUSADAの資格停止処分を条件付きで解除したのです。
 結局、WADAは、ロシアを早く復帰させたいIOCの思惑に、すっかり嫌気がさして、やっていられないと妥協してしまったのでしょう。
 この結論に、当然ながら世界のスポーツ関係者からは、批判が噴出しています。
 しかし、日本の五輪関係者は、そろって、東京大会が正常に戻ると安堵の胸をなでおろしています。まさに、「木を見て森を見ず」という情けない話です。
 これは、IOCが、歴史的に最重要課題としてきたドーピング撲滅理念の棚上げにしか聞こえません。

 第二は、IOCのコーツ調整委員長が、サマータイムの導入を組織委員会が国に働きかけていることを聞いて、「良い解決策だ。日本国内での議論を見守りたい」と、とんでもないことを記者会見で放言したことです。
 すでに私は、7月28日に「急なサマータイム導入の意図は?」を書いて、サマータイム導入案は、組織委員会の森会長による「政治利用」だと批判しています。
 私が紹介するまでもなく、医学界、経済界、労働界等々から強い異論が噴出しているのは周知のところです。
 にもかかわらず、コーツ氏が、日本の記者会見で、公然と日本社会に混乱を招くような発言をするとは、無責任極まりないといわざるを得ません。
 東京五輪・パラリンピックの暑さ対策だけのために、国論を二分する議論を軽々に持ち込むことは、オリンピック反対論を高めるだけの効果しかありません。
 これは、IOCが、財源確保(米国の放送権料)のために、8月に五輪を開催せざるえないことの批判を和らげ、日本の酷暑を懸念する海外選手に弁解するためのレガシー理念なき発言であることは明らかです。

 第三は、札幌市が冬季五輪・パラリンピック招致に意欲を見せていることに対するIOCの対応です。
 札幌市は、最初、2026年に開催したいと招致準備を始めたのですが、北海道新幹線の延伸が間に合わない事情などで、30年大会の招致に変更したいと、JOCに申し出ます。
 JOCは、30年が第一目標であっても、第1段階の「対話ステージ」に参加したのだから、「立候補ステージ」に進むべきだと説得しました。(招致経費が無駄になろうとも、先行投資になると・・・)
 合わせるように、IOCのバッハ会長も、平昌、北京、札幌と東アジアが続いても問題ないと、札幌市の立候補を歓迎・激励します。明らかに、本気でなくても単に立候補都市の数を揃えたいからです。
 そのため、札幌市は、10月のIOC理事会・総会までに、招致活動を継続するか迷いますが、9月6日に発生した「胆振東部地震」をもって、はっきりと26年招致の断念を決定します。
 バッハ会長は、しぶしぶ了解しましたが、さすがに震災では致し方がありません。
 結局、26年冬季五輪は、対話ステージの段階こそ、札幌を含む7都市が、意欲を示していましたものの、「立候補ステージ」には2都市程しか残らないことが、すでに分かっています。
 IOCは、夏季五輪のように、26年、30年の2大会を、同時に決めてしまうという誘惑に駆られているかもしれません。
 これは、冬季五輪の消滅危機まで予見しているIOCが、なりふり構わず、札幌市のように賑わいでもいいから、立候補だけを期待する、開催理念なき都市探しに他なりません。

 さらに、IOC会長が、平昌五輪開会式において、韓国と北朝鮮の両首脳の間に入り、仲介するパフォーマンスを見せつけられると、これまでのIOC理念を棚上げして、いつからこんな現実主義になったのだろうかと憂鬱になります。

 最後に、リオや平昌の五輪開催までは、両国に様々な注文を付けて、大会成功に導いたものの、五輪後の経済反動や施設の後利用失敗には、関係ないふりをするIOCを世界は見ています。
 このようなIOCの理念棚上げが、オリンピック招致活動都市の住民投票において、反対が賛成を上回る一因になっていることに、IOCは気が付かないのでしょうか。