2018年は、中央競技団体(NF)や大学スポーツ部を舞台に、様々な不祥事が連発しました。特に、日本ボクシング連盟の会長問題、日本レスリング協会の監督パワハラ、日本体操協会の指導陣パワハラ、日大アメフト部の危険タックル等は、マスコミを大いに賑わせたのです。

 東京五輪・パラリンピックを前にして、スポーツ団体のガバナンス崩壊に危機感を覚えたスポーツ議員連盟は、国の管理をもっと強化せよと文部科学省に緊急提言し、その意を受けたスポーツ庁は、3月20日に「スポーツ団体のガバナンスコード」を、素案から案に更新しました。

 今回の案で最も注目したのは、役員等(等には監事を含む)の新陳代謝を図るとして、特に「理事」に対しては、就任時の年齢制限は例示しなかったものの、再任回数の上限設定を「原則10年以内」と明記したことです。なお、理事とは、法人法に基づき、会長及び理事長も代表権を持つ理事、すなわち代表理事ですから当然対象になります。

 年齢制限、再任制限について、コード案は「理事が長期間にわたって在任することは、人的構成の固定化を招き、特定の理事の発言力を過度に高め、理事会等での議論の停滞等を招くおそれがある。実際に、長期間在任する特定の理事が過度な支配力を持ち、その強権的・独占的な運営によって様々な不祥事を引き起こした事案も発生している。」として、理事の長期在任は、不祥事のもとであると指摘しています。

 あの日本ボクシング連盟終身会長の例示は明快ですが、折しもJOC竹田会長の任期延長問題が批判されていた時期であり、符合させたようにみえます。

 しかし、「理事の就任時の年齢に制限を設ける」としたことは、矛盾が生じます。

 まず、組織内規において退任時の年齢制限はよく聞きますが、理事就任時の年齢制限は聞いたことがありません。

 さらに、制限する年齢とは、「60歳以上」と「60歳以下」のように、上限なのか下限なのかわかりません。再任回数10年以内と合わせると、許容限度は60~70歳なのか、50~60歳なのか、いずれにしても疑問が残ります。

 一方、コード案には「NF を含めたスポーツ団体における様々な不祥事の要因は個々の事案によって異なるが、共通する一つの背景としては、多くのスポーツ団体は、人的・財政的基盤が脆弱である中、スポーツを愛好する人々の自発的な努力によって支えられてきたことが挙げられる。NFにおいても役員等が無報酬である例は多く、また、現場においても、指導者が無償又は低い報酬で、自己負担により遠征や合宿に参加している例もある。」と、NFの厳しい内部事情を解説しているのです。

 競技団体の重責にある理事を、無報酬ボランティアで引き受けると、少なくとも勤労者であれば65歳以上でないと常勤は難しく、40歳代、50歳代では自発的な努力が制限されます。

 また、コード案では、「理事による権限の行使及び監督が適切に行われるためには、様々な知識・経験を有する多様な人材によって組織を構成されることが重要である。」と多様性の確保を強調していますが、就任時の年齢制限とは、矛盾していないでしょうか。