前回、NFに向けたガバナンスコード案において、役員等の新陳代謝を図るために、理事の就任時の年齢に制限を設けることには、違和感があると書きました。

 なお加筆すると、多くのNFには、温度差はあれども、派閥、学閥、実績序列、上意下達、絶対服従が、いまだ常態化しています。その組織構造に、理事の年齢制限や任期10年以内を押し付けても、小規模なNFほど、すんなりと受け入れるとは思えません。

 しかし、今回のスポーツ庁が主導するガバナンス対策は、NFのコード遵守を査定して、不十分と認定すれば、強化費の削減をちらつかせています。それはNFにとって致命傷になりますので、一応コードに合わせて改善したふりをしますが、代わりに、影の実力者が巧妙に権力を行使する院政の復権を懸念しなければなりません。

 現在でも、同種の経験者が構成するピラミッド型の部分社会では、最高顧問、名誉顧問、名誉会長等の名称で棚上げされた元実力者が、大会等で胸花をつけて来賓席に鎮座しています。しかしこの中には、名誉職とは名ばかりで、現体制に強い影響力を及ぼしている陰の実力者は、一人や二人ではないでしょう。

 法人法による名誉職は、理事会での決定権に参加できませんが、評議員会で発言することは可能です。今後、年齢制限等で早期に外されて不満を持つ旧理事が、派閥、学閥、実績序列等を通じて影響を復権させる傾向が強まることは、十分想定されます。

 さらに、コード案の【原則8】では、利益相反を適切に管理すべきと求めています。理由は、選手の代表選考などの適正な行使を担保する必要があるとして、利益相反ポリシーを作成し、利益相反検討委員会を設置すべきと命じているのです。

 しかし、NFにおける利益相反行為を禁止する前に、日本のNF組織がいかに千差万別であるかを確認すべきです。

 日本のNFには、JSPOとJOCの両方、あるいは、片方だけに加盟している団体だけでも、合計68団体に及び、準加盟や障害者スポーツの団体を含めれば160を超えて存在します。

 その内情は、スポーツ審議会の資料によれば、NFの役職員数は、100人以上の団体もある一方で、20人以下が26%を占めており、正規雇用者数に至っては、140人以上の団体もある一方で、4人以下が35.4%も占めています。

 また、財政規模をみると、NF62団体の平均値は9億5200万円ながら、そのうち、総収入1億円未満のNFが最も多く、22、6%を占めています。

 このように、企業でいえば、大手有名企業から零細企業のように、財源と従業員の規模差が大きすぎるだけでなく、零細規模の方が大多数であって、このいびつな構造のまま、すべてJSPOとJOCに、同格で加盟しているのです。

 特に、零細規模のNFほど、重複する立場をもつ役員が多く、利益相反に該当する行為は、まさに日常茶飯事だといっても過言ではありません。そのようなNFに、いきなり、ポリシーを作成し検討委員会を設置させても、弥縫策に終わる可能性が高いと思います。

 さらに言えば、日本のスポーツ団体(統括団体、NF、地方体育協会等)のトップには、昔から政治家や企業経営者が多く、最近は、多少減少してきたものの、今だ、団体への利益誘導を期待して、議員や企業家と相互補完している団体は、決して少なくありません。これも、利益相反取引の該当性はないと言えるのでしょうか。

 最後に、これほど異なるNF組織に対して、スポーツ庁は、コードへの適合性審査を4年ごとに実施して結果を公表するとしています。当然ながら、すでに、達成している大手団体もあれば、零細規模のNFは、早速に形式だけは整えて審査を通すと思いますが、どれほど組織的な行動規範に活かされ、形骸化しないで継続できるか、極めて不透明です。

 今回のガバナンスコード案は、いきなり理想像を求める感があり、最も改善が求められるNFほど、弥縫策に終わりかねません。まずは、NFの異なる現状を踏まえて、それぞれに段階を踏まえた制度設計を指導し、実効性の高い行動規範になるよう見守るべきではないでしょうか。