またぞろ、高校の運動部活動において指導者の体罰事案が発覚し、批判を浴びています。

 兵庫県尼崎市立尼崎高校の男子バレーボール部を指導する臨時講師(採用条件は確認していません。)が行った加害行為と救急放棄は、報道の通りであれば、明らかに重過失であり糾弾されるべきです。

 しかし、今回唖然としたのは、その後の学校内の対応です。臨時講師に現場指導を丸投げしていた顧問教員は、生徒の怪我を確認せず、その顧問から報告を聞いた教頭は、校長への報告事実を歪め、校長も報告内容を確認せずに、教育委員会へ「体罰はあったがケガはなかった」と報告したのです。

 すなわち、校内のチェック機能が不全に陥っていました。例えれば、チェックすべき責任者が、熱い火(責任)を後ろに放り投げ、みんなが火傷(危機管理)を避けて先送りしたのです。

 ところが、事態の重大さが明らかになり、自分の対応に批判が及びそうになると、手のひらを反したように、教頭は「(けがの部分を)読み飛ばしてしまった。」などと、信じられない稚拙な弁解をしているのです。自己保身の何物でもありません。

 校長も「部活動は顧問に任せきりで、体罰があるとは思ってもみなかった」と弁解していますが、あり得ないことです。輝かしい競技歴を誇るスポーツ名門校に就任した校長が、後の調査結果で判明したような体罰の常態化を、微塵も疑わなかったなどと言われて信じられますか。

1 教育委員会と学校は一心同体

 さらに問題なのは、教育委員会が、「体罰はあったがケガはなかった」との校長報告を鵜呑みにして、そのまま記者会見したことです。その後、被害者側からケガの通告があり、教育委員会は慌てて会見をやり直し、「実は、一時意識を失っていた」と修正して謝罪したのです。

 この教育委員会の対応に危機感を感じた市長は、「体罰調査特命担当」を教育委員会以外の職員から任命して調査に乗り出しました。

 その結果は、「野球部員77人にアンケートしたところ、62人がコーチの体罰を、65人が部長の体罰を見たり聞いたりした。」と答え、「全校生徒955人へのアンケートでは、34人が体罰を受けたことがある、73人が体罰を見聞きしたことがある。」と答えたとされています。

 この数値になんの驚きもありません。今年だけの突出した数字ではなく、体育科創設以来の常態だからです。こんなことは、同校の教職員だけでなく、学校から上がってきた教育委員会の指導主事も、さらに保護者達も(薄々?)分かっていました。だからこそ、報告に驚くことなく、躊躇せず関係者が揃って隠蔽したのです。

 実は、地方自治体の教育委員会事務局では、学校現場で実績を上げた教員が、指導主事という専門職になって教育行政を担っています。この指導主事は、行政で実績を上げた後に、校長として現場に戻る人材なのです。

 したがって、先輩筋に当たる校長が上げてきた報告に、指導主事が疑いつつも批判したり再調査を求めたりするのは難しい関係にあります。いわば、教育委員会と学校は、一心同体といっても過言ではありません。

 これまでも、2011年に世間を驚かせた滋賀県大津市の「中学2年生いじめ自殺事件」をはじめ、教育委員会の不可思議な対応が問題を拡大させたり、こじらせた事件・事故・事案は決して少なくないのです。

2 「特色ある学校づくり」によって体育科が急増

 高校経営者は、文部科学省の「特色ある学校づくり」推進を受けて、学校の特色を探し求めてきました。その選択は「芸術」「文化」「国際化」等に比べて、最も手っ取り早いのが、「体育・スポーツ」だったのです。

 そのため、公立の普通科高校には「体育科」や「体育コース」等が次々と開設され、スポーツ推進校の特色だけに止まらず、大学へのスポーツ推薦がますます活発化していきました。(2018年4月「また始まった、運動部活動改革の懸念【1~4】」を参照してください。)

 現在は、体育あるいはスポーツの学科やコースを併設する公立高校が急増し、全国で47校に及びます。

 その中で、「特色ある学校づくり」の先頭を切り、平成12年に体育科を設置した市立尼崎高校には、毎年80名のスポーツ部活動を目指す生徒が入学し、20種目ほどの部に分かれて学校生活を送っています。その蓄積された戦歴は凄まじく(輝かしく?)、プロ選手を多数輩出しているのです。

 競技実績をノルマと思い込んだ部活指導者は、教育の域を超えた厳しい指導に走り、その過程で体罰等が常態化して、周りがそれを黙認する構造は、なにも、この高校に限ったものではありません。

 その結果、大阪市立桜宮高校バスケットボール部の自殺事件など、悲惨な事件が続発しており、運動部活動での体罰事案を挙げれば枚挙にいとまがありません。

 文部科学省は、これまでも学習指導要領において、部活動を位置付け、活動のあり方を示してきたところであり、スポーツ庁も、下記のような「運動部活動のガイドライン」を都道府県に通知し、活動の管理・抑制を指導しています。

 しかし、スポーツを学校経営に組み入れている私立高校はもとより、体育科を持つ公立高校なども、ほとんど聞く耳をもたないでしょう。

【参考】「適切な休養日等の設定」

○ 学期中は、週当たり2日以上の休養日を設ける。平日は1日、週末は1日以上を休養日とする。週末に大会参加等で活動した場合は、休養日を他の日に振り替える。

○ 長期休業中は、学期中に準じて扱う。また、長期休養期間を設ける。

○ 1日の活動時間は、平日では2時間程度、休業日は3時間程度とし、できるだけ短時間に、合理的でかつ効率的・効果的な活動を行う。