大船渡高校の野球部監督が、県大会決勝戦においてエースを登板させなかった決断の賛否両論を引きずったまま、酷暑の中、甲子園球場で熱戦が続いています。

 この論争は、10年、20年前であれば、おそらく監督批判の割合が大きく上回っていたでしょう。ところが、今回は、旧来の酷使的指導法で成功を収めてきたつもりの経験論者からの大批判・酷評は確かにありましたが、それ以上に、故障を懸念する選手や科学的、教育的な知見を持つ指導者からの称賛的意見が、予想以上に多く聞かれました。やっと時代は変わったのだと安堵と感慨を覚えたところです。

 不変の人体メカニズムに基づく運動生理学や運動力学の知見は、昔からほぼ変わっていません。特に、腱や靭帯の酷使による故障は、単純骨折と違って、如何に医術が進んでも元通りに復元することはできないのです。もし、意図的に強靭な腱や靭帯を移植できるようにすれば、ドーピングと同じ問題を起こします。

 しかし、今回の論争に合わせて、教育関係者によって組織された日本高野連は、これまで引きずってきた球数制限問題を、慌てて有識者に再聴取しているだけで、現在の構造的な問題については、意識的に避けているように見えます。

 いまや高校野球は、国民が楽しむ年中行事になっていますが、そのためにどんどん過熱化・過密化してきた現状を直視して、今回の球数制限論議をきっかけに、高校野球のあり方を根本的に構造改革すべき時期に来ていることを、日本高野連は表明すべきです。

 今年4月、新潟県高野連が、故障予防などを目的に投球数制限の導入を独自に表明した時に、私は、今後の高校野球のあり方について、自分なりの意見を書いていますので、その「高校野球の球数制限を考える!」を踏まえて、再度、以下の重点を提案します。

 第一に、大会や参加すべき試合が増え、1年中、試合が続くようになりました。授業確保もままならず、高校教育にも悪影響となっています。まずは、明治神宮野球大会と国民体育大会の「高校の部」をなくすべきです。また、春の選抜高校野球の選抜基準になる、秋季都道府県大会、秋季地区大会、春季都道府県大会、春季地区大会等も縮小整理するとともに、国際大会(WBSC U-18野球ワールドカップ、AAA世界野球選手権大会)への高校野球部員の選抜も外すべきです。

 第二は、夏の全国高校野球(甲子園球場)は、雨天順延がない大阪ドームとナゴヤドームに会場を移すべきであり、結果、試合間隔を十分取れることと、熱中症対策にも資することになります。

 第三は、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が、東京五輪後の野球国際大会については、すべてのカテゴリーで「9回制」に替わり「7回制」を導入すると表明しています。また、四国のプロ野球独立リーグは、すでに、試合時間の短縮や夏場の熱中症を防ぐためとして「7回制」を導入しています。このような潮流を見れば、高校レベルの野球は、率先して7回制を取り入れるべきではないでしょうか。

 高校野球を青春ドラマ化して、歴史と記録を大事にする大人の娯楽にすることは、もうやめるべきであり、教育関係者は危機感を持って改善に取り組んでほしいと願うばかりです。

 また、この高校野球の構造問題は、スポーツ庁が進める「運動部活動改革」とも、明らかに齟齬が生じています。本来であれば、スポーツ庁も構造改革に言及するところですが、鈴木長官が球数制限だけに私見を述べているだけです。なぜでしょうか。

 なお、運動部活動については、すでに、2018年4月の段階で「また始まった、運動部活動改革の懸念【その1~4】」において指摘していますので、参照してください。