先週一週間、動きの遅い大型台風10号が、西日本を縦断し日本海から北海道へと移動しながら強風と豪雨を全国にもたらしました。もし、今年がオリンピック年で、その上、進路がもう少し東寄りだったら、と考えると五輪関係者はぞっとしたと思います。

 夏の五輪開催は、招致段階から避けられず、競技日程を、7月24日(開会式)から8月9日(閉会式)までの日程を選んだのは、梅雨明けから台風シーズンに入る直前、この期間しかありませんでした。

 夏開催の理由は、近代五輪初期は、アマチュア五輪に対して、世界で徐々に、プロスポーツの隆盛、スポーツの商業化、競技のオールシーズン化等により、オリンピック競技大会の開催条件が狭められ厳しくなってきたことによります。

 初期の近代オリンピックは、数ヶ月かけてゆったりとした日程で行われていましたが、1932年ロサンゼルス大会からは、概ね2週間程度に短縮されました。それでも競技数が20以下と少なく日程の余裕はあったのです。

 ところが、1972年ミュンヘン大会から競技が20以上となり、今回の2020年東京大会は、ソフトボール前倒しや開会式を除けば、16日間に、史上最多の33競技339種目を42会場に組まれています。東京大会は、過去最高の大会規模と過密スケジュールとなっているのです。

 そのため、悪天候に左右される屋外競技、とりわけ、海・川等が舞台の競技(カヌー、ボート、セーリング、サーフィン、マラソンスイミング、トライアスロン)は最も影響を受け、逆に真夏の無風状態が続けば、セーリングやサーフィンの中止もあり得ます。

 また、屋外競技(馬術、野球・ソフトボール、スケートボード、陸上競技、ゴルフ、ホッケー)の種目も、できるだけ前半期に設定して順延も想定していますが、スケジュールが厳しく余裕はありません。さらに、暴風や熱波等による競技時間・距離等の短縮など、ルール変更はオリンピックでは想定の範囲内です。

 なお、確実に決まっていることは、閉会式は動かせないことです。したがって、連続的に台風の直撃を受けたり、想定以上の地震や津波などに見舞われたら、決勝戦の未消化、予選省略等の判断はIF(国際競技連盟) が行います。

 実は、五輪競技の運営については、各IFに使命と役割があると「オリンピック憲章」に定められています。したがって、IFは、JOCやNF(国内競技団体)等の意見を参考に、競技責任者として最終判断することになります。

 周知のとおり、IOCの財源は、放送権、スポンサー権、ライセンス権、オリンピック資産で構成されており、とりわけ、米国の放送権料は膨大のため時間設定などが制約(契約条件は非公開)されています。したがって、IFは放送時間が狂うことを避けたい意向をIOCから受けており、競技が成立しない最悪条件以外は強行せざるを得ません。

 あの平昌冬季五輪では、スキーやスノーボードが、観客も避難するような悪天候になった深夜に強行され、最悪の大会になったと酷評されていることは、記憶に新しいところです。

 また、災害の危険性が予想される場合の競技開催には、台風等の強風で仮設設備が破損や倒壊することが最も危険であり、観客やボランティアの安全確保、選手の危険性除去に配慮しなければならないことは大前提です。

 なお、IOCは、憲章において、「オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない。大会にはNOCが選抜し、IOCから参加登録申請を認められた選手が集う。選手は当該IFの技術面での指導のもとに競技する。(日本版原文)」と定めています。

 そのため、IFは、五輪の競技環境が悪くても、選手間の競技条件が平等・公平であれば開催を強行しなければなりません。ですから、五輪競技では世界記録が生まれにくいことを、選手もよくわかっていて、記録よりメダル獲得なのです。

 一方、組織委員会は、最大収益であるチケット代の払い戻しに備えて、保険をかけると公表しています。パラリンピック大会を含め、様々な収益リスクを想定していることは間違いありません。

 2020年東京大会は、近代オリンピック史上、最も、暑さや台風等の異常気象に脅かされた夏季大会としてIOCが危機感を覚えれば、2032年以降の五輪開催地は、南半球及び緯度の高い北半球が優位になる可能性があります。ちなみに、IOCは、米国のNBCユニバーサルと2032年大会まで、放送権契約を済ませており、7・8月の開催は変えられません。