前回は、「オリンピック休戦」の国連決議について書きましたが、オリンピックの平和運動は、それだけではありません。選手村(オリンピック憲章では、「オリンピック村」という)においても、様々な取り組みが行われます。

 特に、2006年のトリノ冬季五輪からは、選手村内に「休戦ムラール(壁)」を設置し、それに世界のアスリートが、平和を込めてサインすることで「オリンピック休戦」をアピールしてきたのです。もちろん、2020年選手村でも、村内に「休戦ムラール」を設置すると、組織委員会がHPで公表しています。

 選手村は、もともと選手・役員の宿泊と食事を補償するために、1924年のパリ五輪に設置されたのが始まりで、必ず設置されます。

 しかし今の選手村では、オリンピック・ムーブメントの一環として、 ホスト国が海外選手団を歓迎する入村式を開催するなど、 各国の選手間で友好親善を図るとともに、平和運動をアピールする場としても機能しています。だからこそIOCは、あえて選手村ではなく「オリンピック村」と命名したのではないでしょうか。

 そのため、現在のオリンピック憲章には、オリンピック村について、「すべての競技者、チーム役員、またその他のチームスタッフが1カ所に集うため、…中略… OCOG(組織委員会)が提供するものとする。」と定められています。

 一方で、近年の五輪では、開催都市以外の会場で実施される種目が増えたため、遠方の競技会場には、 止むを得ず 「適切な宿泊施設、サービス、諸施設の提供を要請される」と、IOCは、今の憲章に追記しています。

 ところが、日本の五輪選手は、試合準備を万全にするため、選手村に入らない競技団体が複数出てくる動きが以前からありました。

 そのため、2017年10月の段階で、私は「日本の五輪選手は、選手村に入らない?」を書いて懸念を示しています。

 しかし、案の定、今年7月にこの件を調査した朝日新聞は、「選手村に宿泊しない方針の競技団体が6つ、選手村と外部拠点を併用する方針の競技団体(いずれも一部種目のみを含む)も6つある。減量対策や会場への近さなど、よりよい環境を選手に提供する狙いがある。選手の宿泊地を選手村外だけにする6競技のうち、テコンドー、陸上(マラソンと競歩)、野球、自転車のロードはホテルに宿泊する方針だ。陸上の2種目は本番が早朝スタートで、調整をしやすい静かな環境が必要という。減量の必要があるテコンドーは、選手の体調管理を重視し、競技会場(千葉・幕張メッセ)に近いホテルを検討している。卓球とハンドボールは日頃から合宿をしているナショナル・トレーニングセンター(NTC)での宿泊を予定する。選手村と村外を併用する6競技のうち、柔道、重量挙げ、体操もNTCの利用を想定している。」と報道しています。

 それに対して、JOCの選手強化本部長は「日本は東京五輪の選手村で、レストラン近くの便利な一角を希望する予定。その分、人通りが絶えず騒音の問題はあるだろう。各競技団体は選手村の意義を尊重しつつ、良い準備をするための判断をして欲しい」と発言しているのです。

 要するに、入村する日本選手は一番便利な場所に寄宿して、村外での宿泊については各NFの自主判断を容認するということです。

 呆れてものが言えません。結局、「選手村はストレスが堪る環境なので、日本選手は、主催国のインセンティブとして、ホテルやNTC(ナショナルトレーニングセンター)などで最高の準備をさせていただきます。海外の皆さんは、選手村で我慢してください。」と内外に暴露していると同じではないでしょうか。

 JOCの山下泰裕新会長は、選手強化本部長時代に、東京五輪の金メダル獲得目標を30個と掲げました。それが自分に与えられた最大の使命だと思い込んで、好ましくないと思いつつも、日本選手の外泊を黙認しているとしか思えません。

 JOCは、山下氏が会長になった経緯と、スポーツ界だけでなく日本国民が求めているJOCの使命を忘れていませんか。