橋本五輪担当相が参院予算委員会で、IOCとの「開催都市契約」を基にして、2020年中の五輪開催を延期することは可能と発言したと聞き、驚愕しました。

 契約書を棒読みして、国会審議の場であのような発言をするとは、あまりにも軽率です。

 「開催都市契約」は、東京が開催都市に決まった2013年9月7日に、その会場であるブエノスアイレスにおいて、IOCと東京都及びJOCが締結した契約書です。

 その最後のほうに、「契約の解除」という項目があり、「IOCは、以下のいずれかに該当する場合、本契約を解除して、開催都市における本大会を中止する権利を有する。」と記されています。

 「該当する場合」とは、開催国が戦争状態にあることが主題であって、ついでに、重大な義務違反を警告するために作られた項目です。

 その中にある、「本大会が2020年中に開催されない場合」の義務違反を、橋本大臣が12月まで先延ばしできるのではないかと誤解して発言したようです。

 この義務違反は、開催までに施設整備が間に合わない等の重大な準備瑕疵を咎めたものです。

 まして、IOC委員のディック・パウンド氏が、五輪開催の懸念を表明したときに、自ら真っ先に否定したのが秋期への延期はないとの発言でした。それは橋本大臣も聞いていたはずです。

 最高齢のパウンド氏は、オリンピックが放送権料を主財源として成功した、1984年ロサンゼルス五輪の時に、サマランチ会長とピーターユベロス組織委員会会長とともに、今のIOC財政構造を構築した人物です。

 さらに、彼は、放送権を管理する「五輪放送機構(OBS)」のトップを務めた人物です。だからこそ、東京五輪の中止や開催国変更、翌年夏期への延期は完全否定しなかったものの、年内延期だけは、放送権料に影響するために、きっぱりと「ない」と断言したのです。

 ついでに言えば、マラソンを札幌移転させられた小池都知事が、「五輪開催の前提条件となっている7月から8月の実施は、北半球のどの都市でも過酷な条件になる」とIOCが言われたくないことを悔し紛れに述べたときも、IOCは一切反論しませんでした。

 そんなことは、橋本大臣は十分承知のはずです。今回の国会答弁に対して、IOC幹部が不快感を抱いたとしてもおかしくありません。スイスのローザンヌで始まった「東京五輪成功に向けた準備のための理事会」に、影響を与えないよう願うばかりです。