ついに、日本側からも東京五輪の延期論が出てきました。

 それも、五輪の招致活動では重要な役割(?)を果たしてきた高橋治之氏(75歳)で、組織委員会のヒラ理事とはいえ、最もIOCを知り尽くした元電通マンです。

 今回、高橋氏があえて海外メディアに、1、2年延期することが現実的な選択肢だと解説したことは、先日、IOC最高齢委員のディック・パウンド氏が、五輪開催の懸念を表明したことと酷似しています。

 早速、森会長は高橋発言を批判して否定しましたが、パウンド氏に対するIOCバッハ会長の発言と同じです。組織のトップは、現在の正論を主張しなければならないからです。

 組織委員会が最も恐れているのは、マラソンの札幌移転のように、IOCの独断専行で開催条件を押し付けられることです。

 そのため、五輪を知り尽くしている組織委員会のベテラン理事が、延期説を海外メディアに発言したことは、IOCに無観客試合の決断だけは絶対にさけて欲しいことを強く要望したと推測できます。

 多くの競技で無観客になることは、IOCの収益にはほとんど影響ありませんが、五輪で期待したインバウンドが激減して日本経済は壊滅状態になり、チケット代が総収入の約15%を占める組織委員会も大打撃です。

 なお、五輪中止だけは、IOCにとっても放送権料やスポンサー料、ライセンス料が大減収になることから選択肢にありません。したがって、無観客で強行開催するのではなく、翌年以降への延期説を高橋氏が強調したとすれば、その意図は十分理解できます。

 IOCが最も懸念するのは、海外の選手が相次いで出場を辞退することです。

 現在の五輪選手は、ほとんどプロフェッショナルと言っても過言ではありません。彼らにとって、身体・健康は商品なのです。特に多くの海外選手は、自己のビジネスに減収の危険を及ぼすことを承知で、栄誉(メダル)を取り行く人は少ないからです。自国開催の選手は別ですが・・・・

 すでに、プロゴルフの世界ランキング5位のダスティン・ジョンソン(米国)が、東京五輪を欠場すると報道されています。特に個人事業主型のプロ選手の辞退に、歯止めがかからなくなる懸念があります。

 また、新型コロナの蔓延が多少終息に向かっていたとしても、五輪開催を強行した場合、海外選手が少しでも安全性を確認できるのは、厳重な選手村管理、安全なバス輸送、無観客会場が担保できなければ、日本に入国しようと思わないでしょう。

 その無観客対策だけは、なんとか避けたいと願うのは日本側として当然です。高橋氏の発言は、IOCと世界にむかって、今年に無観客で開催するよりも、次年度の開催をアピールしたいとの思いで発言したのだと推察します。