五輪大会の縮小案が急浮上したワケは! 

 新型コロナ対策で日本が「緊急事態宣言」のさなか、IOCが、五輪の1年延期、再延期無し、追加経費額など、立て続けに世界へ向けて発信してきたことに、組織委員会は、国内で五輪中止の声が高まることを恐れ、「協議なし」「合意なし」と否定し続けてきました。

 そして、緊急事態宣言の終了が議論されていた5月20日頃、バッハ会長が「WHOの助言に従う」という覚書を公表した後に、コーツ調整委員長は、「ワクチンが開発されるだけでなく、世界中で確保できなければ開催は難しい」と公言し、その開催可否判断は10月頃になると発言しました。

 これには、日本側がびっくりしたのでしょう。2人の言質をつなげれば、WHOが、10月頃にワクチン開発と普及状況の見通しを予告して、来年春には、この基準に照らしてIOCに勧告するというロードマップが浮かんできます。

 ついに、日本側は堪忍袋の緒が切れて、これ以上黙っていられないと逆襲に出たというわけです。

 まずは、コーツ氏の「開催可否は10月判断」と言ったことに、組織委員会会長代行の遠藤利明氏が「開催可否は、3月頃の代表選手の選考状態が重要」と言い返すバトルから始まりました。

 そして、6月10日のIOC理事会では、日本側から大会の簡素化とロードマップを提案した形で了承され、組織委員会は、その夜に会見したのです。

 内容的には、「安心・安全な環境の提供」「延期経費の最小化」「大会の簡素化」を強調し、秋以降に詳細を検討したうえで、コロナ対策は直前まで変化に対応すると締めくくりました。

 ところが、質疑に対する応答は、以下の通り、具体性に乏しいものです。

 「大会関係者の削減」には「観客や選手は入らない」、「今後の五輪モデルを示すのか」には「そのような大上段に構えているのではなく、華美や豪華と非難されないようにする」、「簡素化とは?」には「サービス水準200項目を挙げたが議論はこれから」、「競技や選手の削減は?」には「競技と選手はコアであり基本を維持する」、「聖火リレーの見直し」には、「これから検討する」など、結局、すべて、これからの議論と答えるだけです。

 しかし、最後に「五輪中止の可能性は?」に対してだけは、「中止という議論は全くない。そうした過程のシナリオを憶測で議論することは正しいことではない。」と森会長が気色ばんでいました。

 一方、IOCバッハ会長は、「(来夏開催の)目標に100%集中しており、それ以外のこと(中止論)は単なる臆測だ」と中止論を打ち消す見解を、この後に公言したのです。

 私は、これまでのIOCの度々の突発的発言に、組織委員会が否定する構図を、「漫才のボケと突っ込みのようだ」と揶揄していましたが、今回は、見事に思惑・利害が一致したことになります。

 この利害の一致は、IOC側からすれば、組織委員会の森会長が、1年延期が決まった時からIOCに応分の追加経費を求めると、国内向けにあれほど言い続けていたことが、今回の提案から消えていることを評価したのだと思います。

 一方、組織委員会は、IOC側が提案した約700億円に対して、さらなる負担増を求めても契約上無理だと判断して、国内向けに、簡素化・効率化による経費削減に切り替えたうえで、IOCに信号を送ったのです。

 IOCに対して、「中止」という選択肢だけは打ち消してほしいというメッセージを求めたのだと思います。

 今回の発表を聞く限り、中止否定の点で「阿吽の呼吸」といったところでしょうが、結局、すべての具体的議論は先送りされて、追加経費も全く不透明であり、9月以降の第二ラウンドに向けた休戦状態にしただけでした。

 今後も水面下の作業が続きそうですが、 もしも、コロナ汚染の第2波を最小限度に防げなければ、今度は、国内外から中止論が強まることを想定していなければなりません。