バッハ会長が11月中に来日した意図とは?

 11月16日にIOCバッハ会長が来日しました。なぜこの時期に来たのでしょうか。

 表向きは、菅首相の就任に伴い、来夏に延期された東京五輪に向けた様々な対策を協議するとともに、確実な開催を世界に発信することが狙いでしょう。

 しかし、自ら万全な防疫対策をして、チャーター機を飛ばしてまで、この11月中旬に来日した最大の目的は、組織委員会が12月末に迫るスポンサー再契約の交渉に難色を示している国内企業へのメッセージだったのです。

 ある新聞社の調査によれば、「コロナ渦での企業収益の悪化」、「確実に来夏開催されるのか疑問」、「関連イベントの縮小や削減による広告や販促効果の低下」などに不安が強く、契約延長するにしても協賛金の減額交渉が厳しく続いているようです。

 おそらく、組織委員会からIOCにSOSを発信したのではないかと憶測しますが、バッハ会長が来日して、改めて五輪の中止選択や2032年への再々延期は皆無であり、来夏に「出来るだけ完全な形で!」開催するので安心して欲しいという、主にスポンサーへのメッセージなのです。

 これまで、組織委員会は、簡素化による経費節減にむけた取組をIOCと交渉していると国内向けに公言していながら、バッハ会長がスポンサー向けには「出来るだけ完全な形」とアピールしたことは、自己矛盾に陥っている感があります。

 加えて、G20サミットの首脳宣言に、菅首相が提唱した「人類の力強さと新型コロナに打ち勝つ世界の結束の証として、来年の東京オリンピック・パラリンピックを主催するとの日本の決意を称賛する。」との文言も明記されました。これも、世界のすべてのオリンピックスポンサーに向けたメッセージになったと思います。

 それでも、バッハ会長の来日意図を、本人の会長再選アピールや、6か月後の北京冬季五輪への影響払拭を挙げる人がいますが、11月にわざわざチャーター機を飛ばして来日するほどの緊急性はありません。

 ただし、今後の動向については1点気になることがあります。IOCが中止判断に変貌する危険性がないわけではありません。

 実は、5月16日にIOCはWHOと覚書を交わしています。その際、バッハ会長は「五輪の開催は全ての人にとって安全な環境であることが大原則。我々はWHOの助言を信頼している。」と述べています。

 すなわち、世界的なコロナ情勢が想像以上に最悪の事態に陥り、ワクチン開発にも誤算が生じて、世界から開催批判が強まった場合、バッハ会長は、WHOのテドロス事務局長に、覚書に基づいて助言・勧告をしてもらう(させる)可能性があります。

 また、9月9日の「IOC調整委員会」においても、覚書に基づき「WHOのリスク管理と緩和措置に従う」と追認しています。

 結局、IOCは来年開催に突き進んだ判断を、世界から非難されることを避けることができるように手配済みなのです。これこそ、バッハ会長が再選リスクを回避するための巧妙な手配かもしれません。すなわち、IOCは、生殺与奪権をいつでも握っていることになります。当然ながら、組織委員会はその危機感を持っているはずです。