墓穴を掘る組織委員会!

 「看護師500人協力依頼」「五輪指定病院を都内10か所、都外20か所確保」「スポーツドクター200人募集」など、マスコミから数字だけが流れて、また国民の批判が増幅しました。

 なぜ、このような数字だけがポロポロと流されるのか、組織委の情報発信、マネージメント能力の稚拙さは、今始まったことではないが、まったく信じられません。組織委は、何度墓穴を掘れば気が付くのだろうか。

 五輪準備体制において医療体制の確立が重要かつ急務であることは理解できるが、医療従事者への協力情報は慎重にしなければならないことぐらい分かりそうなものです。医療関係者や国民の神経を逆なでしているとしか思えません。

 競技会場の観客数の上限が未定の段階で、なぜ「看護師500人」などの救急医療体制の想定が報道に流れるのだろうか。おそらく、「競技会場の観客数を50%程度」の想定での試算が報道されたのでしょう。だからこそ、もっと早い段階で「完全無観客」を前提としていれば、このような試算で批判を受けることもなかったはずです。

 組織委は、もっと先にやらなければならないことがあります。まず橋本会長が、IOCバッハ会長に向けて、各国のオリ・パラ選手団には必ず医療関係者を同行させて、自国の選手・役員等はもとより、五輪関係のコロナ対策と緊急医療対応に対応することを、各国の参加条件にすることです。

 この条件依頼には、厚生労働省の理解と協力が必要になります。実は、日本医師免許を持たない外国人医師が日本国内において医療行為ができない規定があるのです。しかし、阪神淡路大震災や東日本大震災の時には、駆けつけてくれた海外医療チームに対し、厚労省が「外国の医師免許を有する者の医療行為の取り扱いについて」という特例の事務連絡を出して、一定の範囲の治療行為が行われています。まして、五輪参加の自国選手・役員だけに医療行為を限定する条件にすれば、各国選手団に医療関係者を同行させる特例は出せるはずです。

 さらに、IOCバッハ会長は、昨年5月にWHOのテドロス事務局長と会談して、延期された東京五輪の安全な開催に向けた準備で引き続き連携していく確認事項を盛り込んだ覚書を交わしています。

 その際に会見を行ったテドロス事務局長は「健康と幸福のためには体を動かすことが必要だ。世界中の人たちのより健康的で安全な生活の助けになるよう両者で協力したい」と話し、バッハ会長は「WHOと緊密に連携しながらポストコロナ社会でのスポーツの促進を進めたい」と話しました。

 さらに、ペドロフ事務局長から、「ワクチンが完成する見通しがたたない中で東京五輪をどのように運営していくのか」と問われたバッハ会長は「2021年の7月に世界がどのようになっているかわからない。大会まで1年2か月ある中でWHOの助言に従いながら、正しい時期に必要な決定を行う」と述べているのです。

 そこで橋本会長は、この覚書を利用して、WHOに対し「国内事情で医療関係者を同行させられない参加国には、WHOがサポートしてほしい。」などの交渉をIOCの仲介のもとで行うべきなのです。

 その成果を踏まえて、国内に向けては、「選手・役員全員は完全隔離」、「完全無観客」、「海外観光客なし」「海外選手団には医療関係者が同行」を前提に考えれば、日本選手団に対応するチームドクターだけで済むと説明できるのです。それをいまだに、観客を入れる前提で、各競技会場に配置する医療関係者の必要数を発表しているから、大批判を受けるのでしょう。

 結果はともかく、IOC、WHOへの依頼を強力に訴えることで、日本国内の「看護師」「スポーツドクター」の協力は、極めて限定的になるとのメッセージとなって、日本国民に響いて理解されるようになりませんか。

 IOCとの裏交渉に長けた森喜朗前会長より、引き継いだ橋本会長のほうが「よかった」と国民から評価されるためには、「東京2020大会」を厳しいコロナ渦でも開催するための重要対策を、IOCバッハ会長に対して厳しく要求し続けることが絶対に必要です。

 そして、結果的にIOCとWHOが一切聞き入れてもらえなければ、「東京2020大会」を「返上」すると公言すべきです。

 実は、五輪の開催・中止の判断は、契約上IOC側に権限があり、日本側に中止する権限がありません。したがって、正しくは「返上」することになります。これからは、マスコミも「中止」ではなく「返上」と報道すべきです。

 なお、再度批判しますが、可能性が皆無である「再延期」の選択肢を入れた無責任なミスリード調査はすぐやめるべきです。今の日本側の選択肢は、「返上」か「開催するならその条件」だけしかないからです。

 また、現在のIOCが主体的に「中止」を判断する条件は、日本の国内事情ではなく、世界のIF(国際競技団体)とNOC(各国オリンピック委員会)から、「中止すべき」との要望が殺到した場合だけです。なお北朝鮮の派遣中止や世界の懸念報道などについてIOCは一顧だにしません。