五輪を返上した場合の評価は!

 「東京2020大会」の開催について、主催者IOCからの「中止指示」はありませんので、開催都市東京都が「返上」した場合、コロナ問題終息後にどのような検証・評価がなされるのだろうか。

 返上直後に発生するIOCとの賠償交渉や保険適用等については省いて、世界のスポーツ界から、今後の日本がどのように見られ、厳しい対応が待ち受けているのか。さらに、近代オリンピック史にはどのような評価として残るのかを想定してみたい。

 歴史的にみると、日本は、嘉納治五郎が招致した「1940年 第12回 東京オリンピック大会」を、嘉納の死後1938年に軍部が「返上」し、その代替地となった「ヘルシンキ」は、第二次世界大戦勃発により「中止」になりました。

 なお、オリンピックは、中止・返上しようとも「第〇〇大会」と回数が加算されて残ります。したがって、今回の「東京2020大会」が約3ヶ月前に返上されても代替地がないため、永遠に「第32回 東京オリンピック大会(返上)」として記録に残り、次の「第33回 パリオリンピック大会」に引き継がれます。また、今回のように延期された大会は、近代五輪史上初めてであることは、すでに周知のことと思います。

 近代オリンピックで感染症により開催が危ぶまれた大会は、今始まったことではありません。特に厳しかったのは、1920年「第7回 アントワープ大会」での、人類史上最も深刻な危機と言われた「スペイン風邪」です。その後も、1964年「第18回 東京大会」では、コレラ、天然痘、赤痢対策があり、前回の「第32回 リオ大会」では「ジカ熱」でゴルフの松山選手らが出場辞退しています。結局、歴史的には、近代オリンピックの「中止」や「返上」は世界大戦以外にありません。

 そのため、現在のIOCやIF(国際競技団体)及びNOC(各国オリンピック委員会)は、どうすれば開催できるかについて、日本側の対策を促しながら見守っているところです。したがって、東京都がこの時期に「返上」しようものなら、日本は世界のスポーツ界から完全に信用を失います。

 2030年の冬季オリンピックを招致している「札幌大会」は、第2期バッハ体制からは不利な扱いを覚悟しなければなりません。また、仮に招致できても「厳しい返上補償」が付帯条件になるでしょう。

 また、信用を失った日本は、各IFが主催する様々なWカップ大会や世界選手権などの開催招致が困難になるだけでなく、日本国内の競技団体や選手役員からも不満が爆発して、国際大会出場ボイコットや、海外に活動拠点を移す選手やコーチも増えるのではないだろうか。

 ついでに、ある新聞の社説を紹介しよう。「こんな状態で五輪・パラリンピックを開催できるのか。強行したら国内外にさらなる災禍をもたらすことになるのではないか。それが多くの人が抱く率直な思いであろう。」と主張しているが的外れも甚だしい。多くの人が抱く率直な思いは、コロナによる不遇のわが身と比較して、五輪だけ優遇されることを不快に思っているからでしょう。

 さらに「(外国)選手らが東京で罹患し、故郷(自国?)に戻ってウイルスを広めるようなことがあれば取り返しがつかない。」と書いているが、国民がそんな心配で開催を否定しているのではありません。

 また、社説は「五輪のために人も生命・健康を犠牲にすることはできない。当然の理である。」と締めくくっていますが、これも強い違和感を覚えます。

 結局のところ、「前門の虎 後門の狼」といえます。