「Tokyo2020大会」の経費を問う(その1)

 パラリンピックが終了して半年、日本は何もなかったように新年を迎えました。本当にあれでよかったのだろうか。

 オリンピック直前まで反対運動が渦巻く中で、アスリートをはじめスポーツ関係者はじっと寡黙を貫き、終わってみれば、メダリストがテレビ出演し得意げにメダルを掲げる風景が、年末年始まで続きました。なにか台風一過の晴天を見上げて、災害はなかったと喚起している姿に、よく似ていると感じたのは、私だけではないはずです。

 しかし、1年延期され、無観客で開催された「Tokyo2020大会」決算への懸念は続いています。本来は、今年3月に解散を予定していた公益法人の組織委員会は、大会の公式報告書を、2022年3月までにまとめると武藤敏郎事務総長が明言していましたが、開催経費の決裁に相当の交渉が残されているため解散できる状態ではありません。

 特に、組織委員会が2020年12月の段階で、発表した経費予測V5(バージョン5)によれば、総額は1兆6440億円であり、延期前の計画1兆3500億円から新型コロナ対策などで2940億円が増加したと公表して、組織委員会が7060億円、東京都が7170億円、国が2210億円をそれぞれ負担するとしていました。

 しかしその後、2021年7月に無観客の決定が政府によって決定され、経費予測はまったく不透明になったのです。特に、競技会場のチケット収入(900億円)がほぼなくなったことで試算が狂ったとの報道が溢れたのです。

 一方で、ボランティアや警備員等の経費が大幅に削減され、開催経費は1兆5000億円程度になる見通しという情報も出て、ある程度、相殺できるとの意見もありました。しかし、人員確保や観客関連設備の準備作業等は、広告代理店等がすでに業務を終了しておりキャンセルはできません。したがって、予定経費の削減につなげるためには、1年延期や無観客に伴う、各種マネージメント料、スポンサー料等の支払い交渉が続いていると思われます。

 改めて「Tokyo2020大会」の経費に関する経緯を確認します。

【2013年】

9月8日 `20年開催都市が東京に決定(都の4千億円基金と財政基盤が高評価)

【2014年】

9月 都は施設見直しで、「海の森水上競技場」は69億円が400億円になると説明

11月 都は「球技3施設の建設を中止し整備費を半分の2500億円に圧縮する」と発表

【2015年】

5月 下村五輪相は新国立競技場の整備費用1700億円のうち、都に500億円の負担を要請

12月 日銀は経済効果を`14~`20年累積で「25~30兆円」と試算し、建設投資は10兆円に上り、`15~18年の実質GDP伸び率を毎年0.2~0.3%押し上げると試算

【2016年】

1月 新国立競技場の総工費「1489億円余」で協定したと公表

9月 都の予算検証チームが「開催費用3兆円」を批判(「海の森水上競技場」整備が7倍の491億円に膨張するので宮城県登米市ボート場に変更を提言

12月 大会経費は最大1兆8000億円と、都・政府・組織委・IOCが公表

【2017年】

3月 都は、経済波及効果が「`13年から17年間で全国32兆円」と試算公表

5月 IOCと都、組織委が「開催都市契約書」を締結(契約書には、余剰金は組織委に60%、JOCとIOCに各20%が分配と明記)

5月 都以外の仮設施設整備費約500億円は都が負担し、パラ経費は政府に定額負担することを小池知事と安倍首相が契約

9月 都外競技場の運営費340億円に、宝くじ売上げをあてることで自治体が合意

11月 都は新設8会場の整備費を2241億円から1828億円に削減

12月 都、組織委、政府は大会経費を1兆3500億円とし、組織委と都が6千億円ずつ、政府が1500億円を分担と発表

【2018年】

10月 国負担の大会経費1500億円公表に、会計検査院が「国の関連施策に、すでに8千億円支出済み」と指摘し、経費の全体像を示すよう要求

10月 会計検査院の指摘を受け、政府は過去5年間の大会直接支出は「1700億円余り」と公表し、内訳を、直接的経費A、間接的経費B、その他経費Cに分けて説明

12月 組織委と都は予算総額「1兆3500億円」を維持と再確認

【2019年】

3月 都議会の`19年度一般会計予算は過去最大7兆4610億円で可決

11月 新国立競技場完成で、工事費は1529億円(上限1550億円)と公表

12月 会計検査院は1兆3500億円の直接関係経費とは別に、関連する国の施策として`18年度までの6年間に計1兆600億円の支出が判明、去年の調査より約2500億円増加として大会費用の全体像を改めて公表するよう国に要求

12月 会計検査院の指摘に橋本五輪相は「大会事業は2600億円弱」とし、1月に関連費用を集計すると説明

【2020年】

1月 政府が直接負担する経費を総額2777億円とする集計を発表

都は負担額が360億円減り1兆3741億円になると事業費を公表

3月 関西大学宮本氏が、大会1年延期の経済損失を「6400億円余」と試算

3月24日 東京五輪・パラリンピック 1年程度延期で合意

5月 IOCは大会追加経費として最大で約860億円を拠出と発表

12月 延期追加費用は総額2940億円と政府、都、組織委の代表者会議で決定

12月 組織委は国内スポンサー企業全68社が延期に向けて契約延長で基本合意し、追加協賛金は220億円を上回ると公表

【2021年】

6月 政府は、来日外国要人の接遇経費として約43.6億円を予算計上

7月 野村総研が「無観客の経済効果は1400億円余目減りで1兆6440円」と公表

7月23日 1年延期された五輪がほぼ無観客で開幕