不思議な「外交的ボイコット」

 今年の北京冬季オリンピック・パラリンピックは、バイデン米国大統領の呼びかけで、オーストラリア、イギリスなどが、中国での新疆ウイグル族残虐を批判して「外交的ボイコット」を表明して始まりました。

 日本も1年延期という近代五輪史上初めての決断(?)を経たうえに、新型コロナ感染による反対論が渦巻くなか「TOKYO2020大会」を終えたばかりです。

 近年の近代五輪は、財政が肥大化して引き受ける開催都市が減少するなかで、降雪量が少なく不評だった北京市に引き受けてもらったIOCバッハ会長は、バイデン米国大統領が「外交的ボイコット」を呼びかけたことに、内心、怒り心頭だったはずです。

 もしも、アメリカの大統領をトランプ氏が続けていたら、彼ならどうしただろうかと妄想すると面白いと思いませんか。少なくともトランプ氏なら「外交的ボイコット」などという中途半端な対応は想像できません。おそらく、中国に自ら乗り込んで習近平国家主席とハグして、バッハ会長と談笑していたのでないだろうか。なにしろ、北朝鮮の金正恩委員長と板門店で堂々と拍手するパフォーマンスを見せるぐらいですから。

 一方、リアリストであるバッハ会長も、2018年平昌冬季五輪の開会式で、韓国と北朝鮮の間を仲介しようとした自分を思い描いて、北京五輪の開会式では、習近平氏とトランプ氏の間に座っている自分を妄想していたはずです。

 その妄想をバイデン氏がかき消したことで、内心は忸怩たる思いでいたところに、今度は、ロシアのプーチン大統領が、北京冬季オリパラ大会中に、ウクライナ侵攻に踏み切ったことに激怒したことは想像に難くありません。

 IOCは、プーチン大統領に授与していた功労賞を当然のように剥奪したのでしょうが、その最大の理由について報道は、近代五輪が続けてきた国連での「五輪休戦決議」が踏みにじられたことに激高したバッハ氏の英断だと解説していますが、バッハ氏の本音は、開会式で仲介する自分の雄姿を踏みにじられたことが許せなかったのだと思います。

 なお、IOC会長についても、昨年8月に死去した前会長の整形外科医のジャック・ロゲ氏が継続していたら、バッハ会長と違った対応をしたかもしれないと考えると面白いところです。