リオ五輪の開会式は、経費を3億円に縮減したうえで、テーマ、メッセージが明確に示され、素晴らしかったと評価します。

 今回のテーマは、総じていえば「平和と環境」と言われていますが、特に、私が注目したのは環境問題です。

 入場行進で各国の選手団が、樹木の種を持ち、行進中に大地に見立てた柱に、植え付ける光景が延々と続きます。
 そして、行進後にその植え付けられ柱が、集められ五輪の輪を作ります。それが一斉に緑の樹木に芽吹く光景を描きます。見事な演出でした。

 また、選手入場前には、地球温暖化で上昇する海面や、北極海の氷山が崩落する映像が映し出されたことも印象的でした。

 さらに、聖火台の火がコンパクトになっていたのは、化石燃料の消費を抑えるというメッセージであると聞き、感動しました。

 そして、大会の競技日程を終えた閉会式では、フィールドの中央で大木となった樹木が映し出されました。
 すなわち、開会式で種をまき芽吹いた木々が、閉会式で大木となるというストーリーが完成するのです。

 しかし、日本の報道は、まったくと言っていいほど、この閉会式までのストーリーを解説していません。

 実は、リオ市が、環境問題をテーマにしたのは、これまでの経緯・歴史に基づいているのです。

 1992年6月、リオ市で「地球サミット」(環境と開発に関する国連会議)が開催されます。
 そこで、21世紀に向けて環境を保護し持続可能な開発を実現するために、各国及び国際機関が実行すべき「環境保全行動計画」として「アジェンダ(Agenda)21」が採択されたのです。
 もちろん、日本も批准し、1997年の「京都議定書」につながるのです。

 そして、IOCは、このアジェンダを受けて、「オリンピックムーブメント・アジェンダ21」を採択し、1994年改訂の「オリンピック憲章」に初めて「環境」の項目を追加したのです。

 さらに、IOCは、1999年10月、リオ市で開催された「第3回IOCスポーツと環境世界会議」において「スポーツと持続可能な開発に関するリオ宣言」を採択します。

 このように、リオ市は、地球の環境問題の会議に積極的にかかわり、何度もその舞台になっているのです。

 その後の五輪開催都市では、それぞれに様々な環境政策を提案することになりました。

*シドニー大会(2000年)では、「200万本植樹、低公害車、エネルギー政策 等」
*トリノ五輪(2006年)では、「カーボン・ニュートラル対策、廃棄物ゼロ 等」
*ロンドン五輪(2012年)では、「自然資源の持続可能な調達、One Planet Olympicプラン 等」
東京五輪の招致(2016年)では、「環境ガイドライン作成、カーボンマイナス対策 等」

 しかし、閉会式で行われた「東京五輪の紹介パフォーマンス」の8分間では、リオが発信した持続可能なオリンピックのための環境問題を引き継ぎますというメッセージは、微塵もありませんでした。

 JOCはこれまで、オリンピックムーブメントでの環境メッセージには十分取り組んできましたが、今回の件は、組織委員会の中で環境アピールを主張しなかったのでしょうか。
 少なくとも、JOCは、報道機関にリオのメッセージを解説して伝えるべきではなかったでしょうか。

 すでに、2020年東京大会での、酷暑や豪雨が懸念されていますが、その根本問題である地球温暖化などの環境問題を、メッセージの一つに加えることを忘れてはなりません。

 先日、小池都知事が、IOCバッハ会長と会談した時に、持続可能性という言葉を使い、「環境面でもコスト面でも、経済的に豊かな都市でなくても、オリンピックを開催できるということを東京で示したい」と話したと伝わっています。

 小池知事には、この言葉を政策判断のベースにして、五輪準備の主導権を発揮してもらいたいと期待しています。