批判のやり玉に挙がっている「海の森水上競技場(ボート・カヌー会場)」を例にして、整備費が変動したワケを説明します。

 まず、IOCに提出した計画書の「招致ファイル」では、整備費69億円と書きました。この額は、設計図を基に精密に見積もったものではありません。建設局の部署に、絵コントぐらいの条件で、いくらにすればいいかを聞いただけです。
 加えて、IOCの質問では、競技施設の本体工事費だけを記載するよう求めているだけで、周辺機能や五輪関連設備等は書かなくてもよかったのです。その本体工事費が69億円だったということです。

 そして、東京五輪の開催が決まりました。さあ大変です。都は、これまでの選挙公約として作成した構想図を、NF(国内競技団体)に聞きながら、五輪仕様の基本構想に変更します。

 また、会場を決定する最終段階には、IF(国際競技団体)が立ち合い、オリンピック施設として必要な条件を聞いて、基本構想を決定します。その結果、招致時の構想では到底済まないことがわかります。

 都が「海の森水上競技場」の要件を、すべて満たした場合を試算したところ、次のような経費になることがわかりました。

 都議会資料によると、「本体工事の積算:567億円」「インフラ整備等:166億円」「調査・建設委託費:19億円」「建設物価の上昇:194億円」「工事中のセキュリティ経費:45億円」「消費税10%対応:47億円」が必要となり、合計すると1,038億円になりました。

 特に本体工事には、地盤の強化、建物の基礎見直し、橋の建替え、水門の設置等々、想定していなかったことが判明し、567億円になったというわけです。

 東京都は、このままでは到底理解が得られないとして、工事を簡略化したり、橋や水門は用途変更にして他局に付け替えるなどして、491億円まで総額を落として発表したわけです。

 世間的には、69億円、1038億円、491億円の変動をみて、最初の見積もりが「あまりにずさん」ではないかと批判されていますが、もともと比べている内容が違うことも確かです。

 なお、NFではなく、ボート選手などからは「こんな悪条件で五輪競技はできない」と不満を漏らしていますが、この競技会場は、IFとNFが条件を満たしているとして承認しましたので、IOCに正式報告されています。

 もちろん、整備費が高騰した理由は、これだけではありません。例えば、入札問題、五輪に便乗した過剰整備、資材高騰の真意などは、明らかにしなければなりません。

 特に、入札問題には、談合はもとより、デザイン・ビルド方式や性能発注方式に基づく疑問点もたくさんありますので、それは別途明らかにすべきことは言うまでもありません。