今年の2月3日に、「日本学術会議」の環境学委員会(都市と自然と環境分科会)が、神宮外苑の歴史を踏まえた新国立競技場整備への提言を発表しました。その副題が、「大地に根ざした『本物の杜』の実現のために」です。

 その中で、3つの視点を提言しています。
 【提言1】神宮外苑の歴史と生態系を踏まえた「本物の杜」を再生していく
 【提言2】「水循環基本法」に基づき、人工地盤上の不自然なせせらぎの整備を止め、「渋谷川」を地表面に戻す
 【提言3】「神宮の杜再生会議」を立ち上げ、100年の杜を作る「神宮の杜基金」を創設する

 学術会議が、旧ザハ案の時から継続的に問題視してきたのは、平成16年の都市公園法改正による「立体都市公園制度」を、歴史的風致を保全すべき神宮外苑に適用しようとしていることです。

 今回の新国立競技場を含む都市計画についても、当制度をそのまま踏襲して、人工地盤による偽物の自然を作ろうとしていることに反対しているのです。

 一方で、国土交通省は、2014年に「水循環基本法」を公布しており、下水道整備が遅れていた1960年代に都市部の河川が暗渠となった水源を復元するための政策を進めています。

 学術会議は、この「水循環基本法」の理念に基づき、前回の1964年東京五輪において暗渠となった「渋谷川(新国立と東京体育館の間の道路下)」の清流を地表面に戻すべきと訴えています。

 そういえば、前回の東京五輪でも整備する首都高が、重要文化財である「日本橋」の真上に覆いかぶることで強い反対意見がありました。オリンピックに間に合わないことを理由に、反対意見を押し切って高架橋を作った経緯があり、今でも復元すべきであるという運動が続いています。

 オリンピックやスポーツの及ぼす価値が優先され、相反する価値には見向きもしない進め方は避けるべきです。まして、日本の科学者・研究者の代表機関である日本学術会議から提言されていることを重く見て、少なくとも協議に応じるべきではないだろうか。

 また、スポーツ庁の審議会が先日発表した「第2期スポーツ基本計画について(答申)」において、「オリンピック・パラリンピックムーブメントを推進することで、レガシーとして『一億総スポーツ社会』を実現することが日本の未来を創る」と高らかに宣言していることにも、極めて強い違和感を覚えます。

 スポーツ社会こそが日本の理想であり、その価値に向けた社会資本整備こそが最優先されるべきだという考え方は避けるべきです。

 オリンピックはオールジャパンだとして、このまま押し切れば、これまでの開催経費等への不満に加えて、オリンピックやスポーツへの批判が増幅しかねません。オリンピック及びスポーツの関係者は、もっと謙虚になるべきでしょう。