IOCのバッハ会長は、オリンピック憲章の根本原則である、スポーツの価値・選手保護・持続可能性などを放棄するのか、と問いたい。

 近代オリンピック創設者のクーベルタン男爵は、戦いに明け暮れる欧州諸国の若者に教育を広めることを目的に、オリンピックを創設したのです。

 そのため、オリンピックは国開催を避けて都市開催にしたうえで、「オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない。」と憲章に定めてきたのです。
 さらに、「IOCとOCOG(組織委員会)は、国ごとの世界ランキングを作成してはならない。」とまで書いています。

 ですから、難民選手団のように、南北合同で入場行進することには、奨励こそすれ批判する余地はありません。以前には、5代目のブランデージ会長時代のIOCにおいて、競技ごとの表彰式では国旗掲揚・国歌吹奏を廃止する案が議論されたこともあるぐらいですから、シドニー五輪と同様に、朝鮮半島をマークにした旗や国歌の代わりに共通の民謡を使うことも、まったく依存ありません。

 ところが、昨日IOCが受け入れた、韓国と北朝鮮の提案の中で「アイスホッケー女子は韓国23人と北朝鮮12人の35選手で合同チームを構成したうえで、他国との公平性を考慮して各試合で登録できるのは規定通りの22人とし、北朝鮮選手を3人以上入れる。」ことを認めたことは極めて遺憾です。
 すでに五輪メンバーに決まっていた韓国選手を、自分の落ち度がないにもかかわらず、たった20日前に政治力で除外することを認めたことになります。こんなことを、なぜIOCは容認するのか。韓国NOCはなぜ反対しないのか。

 確かにIOCのバッハ会長は、昨年の文在寅政権の誕生直後に、南北合同チームの提案をしていますが、緻密な戦略が必要なチーム競技まで想定していなかったはずです。さらに、時期が半年以上であれば対応可能と思っていたのだと思います。文大統領は、スポーツ競技のことは無知で意に介さないからこそ、該当選手の前で、アイスホッケーはマイナーだとか、弱いからいいではないかと発言するのです。そのような発想もIOCは容認したことになります。

 オリンピック憲章には、IOCの使命と役割のなかに「スポーツと選手を、政治的または商業的に不適切に利用することに反対すること。」と定めているのです。この点からしても、明らかにオリンピック憲章の違反に該当します。

 IOCのバッハ会長に対して、オリンピックで平和を作れると前のめりになることは危険だと、スポーツ関係者は進言すべきです。逆に、オリンピックが政治に利用され続けてきた歴史を振り返るべきです。