日本のスポーツ界は、このような稚拙なトラブルをいつまで世間に晒すのか。極めて遺憾です。
 「教育」の中にあった日本の「学校スポーツ」は、すでに、教育機能ではなく経済的価値を求める産業機能になろうとしています。そのことが、様々な事件・事故の一因になっていることを憂慮しています。

 政府は、平成28年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定し、その中で、日本のスポーツ市場規模を、現在の5.5兆円を、2020年までに10兆円、2025年には20兆円まで成長させるという目標を立て、国の「スポーツ産業ビジョン」と定めています。

 特に、そのビジョンの対象が、「大学スポーツ」を産業化することにあるのです。

 すでに、文部科学省は、昨年4月に策定した「第2期スポーツ基本計画」のなかで、大学及び学生競技連盟を中心とした、横断的な統括組織を創設すると決めています。簡単に言えば、中学校の「中体連」や高校の「高体連」「高野連」のような全国統括組織が、大学にはないので創設するというものです。

 実は、アメリカの大学において、1910年に「NCAA(National Collegiate Athletic Association:全米大学体育協会)が創設されて、すでにビジネス化が定着しています。

 日本は、このアメリカの「NCAA」を導入し、「日本版NCAA」を創設することを決めて、昨年度には、1億円の国家予算をつけて、青山学院大、鹿屋体育大、順天堂大、筑波大、日体大、立命館大、早稲田大、大阪体育大の8大学に、約1千万円ずつ支援し、組織体制のモデルケースを始めています。

 具体的には、各大学に「スポーツ部局」を設置し、大学スポーツの資金調達や経理等を仕切る「大学スポーツ・アドミニストレーター(SA)」を配置します。
 一応、スポーツ庁は、スポーツ教育・研究の充実や小中学校・高校への学生派遣、学生のデュアルキャリア支援、地域貢献・地域活性化などを業務として挙げていますが、本音は、大学スポーツのビジネス化を通して、大会のスポンサーや放送権等による資金調達を強化して、大学経営の支援に供することが主目的です。
 某大学の総長が、奇しくも「私学は、すでに入学金や授業料を上げられない。大学が自ら資金調達をしなければならない時代になった。」と吐露しています。

 ちなみに、現在のアメリカ「NCAA」では、全米の大学スポーツ全体の収入は、年間8千億円であり、この総額はメジャーリーグ(MLB)の収益に匹敵します。
 また、トップクラスの大学収入は、年間約200億円(チケット、権利販売、寄付金等)を得ており、収益トップの大学は、毎年約500億円(放送権料が8割)を獲得しています。

 なかでも、アメフト、バスケットボールのトップコーチは年収が約8億円になるといわれ、学長・総長よりも高収入のコーチは複数存在します。

 この「NCAA」が日本の大学スポーツに導入されれば、強い権限を与えられた大学の監督・コーチは、間違いなく、自分のためにも、勝利を至上命題とした指導をします。

 さらに、各大学に設置された「スポーツ部局」はもとより、その総支配人となるSDも、自分の職務として常勝大学を目指すことは必定ではないですか。

 なお、アメリカでは、1900年頃にアメフトによる死亡事故が続出したことを憂慮して、ルーズベルト大統領が、ルール改正と適切な管理・運営を求めて「NCAA」の前身である「IAAUS(合衆国大学間体育協会)」を設立しています。
 日本も、アメフトでの傷害事件がきっかけになって、「日本版NCAA」が始動するとは、皮肉な出来事です。

 日本では、大学アメフト問題だけでなく、いまでも決着していないレスリング問題、遡れば柔道問題など、スポーツ界を揺るがすアンチ・インテグリティ事案は、後を絶たない現状です。今後も、スポーツの産業化によって、頻繁に発生することは想像に難くありません。