日大アメリカンフットボール部の悪質反則問題で、警視庁捜査1課が、「捜査を尽くした結果、犯罪にあたる事実は一つもなかった」と公表しました。いまさら驚くことではありません。

 このようなスポーツ界の巧妙なパワハラ事案を、凶悪事件を捜査する警視庁捜査1課が犯罪にあたるかどうかを立証すること自体に違和感を覚えます。

 巧妙なスポーツ指導者は、選手を鼓舞する最も有効な手段として、レギュラー選抜や代表選考に関する自分の意志・意図を、過敏になっている選手本人にそれとなく判るよう、態度や囁きをもって仄めかすのが能力だと思っています。

 このように、指導者が独占している「生殺与奪の権」を、巧妙にちらつかせて、選手が勝手に指導者に対して絶対服従するよう誘導するのが、最高の手腕と思い込んでいる指導者は数え切れません。

 したがって、このような指導者ほど、刑事訴追されるような露骨なパワハラや見せしめの暴言・暴力などはしません。

 今回の違法タックル問題も、試合前日に井上コーチが「監督が『1プレー目からQB(クオーターバック)を潰せば試合に出す』と言っている」と囁いています。もともと有能なレギュラーだった宮川選手は、この時怪我でもないのに、なぜかレギラーを外されていたのです。このように不安な心理状態に追い込んでおいて、コーチが試合に出す条件を囁けば、選手は「やるしかない」と思い込むのは計算済みのはずです。その証拠に、井上コーチは、「「『潰せ』は思い切り行けという意味」と釈明はしていますが、「試合に出す」と言ったことは否定していません。しかし、宮川選手の耳に最もインパクトがあったのは「試合に出す」という囁きなのです。

 また本当に、監督やコーチが、直接的な指示をしていないと弁明するなら、宮川選手が明らかな違法タックル(故意的行為)を起こした後に、引き返してきた宮川選手に「酷い違法タックルをなぜした!」と監督・コーチが烈火のごとく厳しく叱責しなかったのか。泣いている選手を無視していたではないですか。その時の監督・コーチの態度を見ただけでも、自分たちの巧妙な指示に満足していたからだといわざるを得ません。

 一方、マスコミ等はこの捜査結果について、一斉に「真逆の結論」とか「第三委の判断を否定」「タックル指示はシロ」などと、いかにも「黒が白にひっくり返った」ごとくの報道をしたことは、極めて遺憾です。

 「スポーツ指導上のパワハラ判断」と「刑法上の犯罪認定」の異質な判断基準を比べて、真逆の結論と評価することに強い違和感を覚えます。

 なお、すでに明らかになっている、「日本体操協会の第三者委員会報告書」も、塚原夫妻のパワハラ行為について、不適切な行為が多々あったとしながらも、法律には抵触していないと結論付けて、間髪入れずに塚原夫妻は復職しました。この報告書も弁護士10名が違法性を調査したもので、アメフト問題の捜査と、構造的には同一と言っても過言ではありません。