韓国と北朝鮮は、経済協力を経て、2032年に「ソウル・平壌共同五輪」を成功させ、2045年には統一をめざすという構想を示して、IOCに五輪招致を申請したとされています。

 このような構想で、IOC委員の賛意を経て開催都市に指名される可能性は、極めて低いどころか、ゼロに近いと断言できます。

 確かに、IOCは両都市の招致申請を受理しました。申請自体を拒否したことは過去にありません。立候補都市が増えることにIOCは大歓迎で、これまでと何ら変わらないからです。

 しかし、五輪開催地の決定は、7年前ですから、2032年大会の選考は、2025年理事会総会で結果が出ます。今の朝鮮半島の体制が、あと5年以内に、ドイツ統一のような劇的な変動を期待できますか?

 政治体制だけではありません。北朝鮮の人権問題は世界水準に改善されると思いますか?

 近代オリンピックの発祥は、フランス人のクーベルタンが、スポーツを通して青少年を教育し、平和を求めて立ち上げたのです。その後に、人権問題や環境問題へのスポーツ貢献をアピールしてきました。そのため、現在のオリンピック理念は、「平和、教育、人権、環境」の4つのテーマであり、そのことはオリンピック憲章にしっかりと定められています。

 あの南アフリカは、人種隔離政策のため、7回連続で五輪参加国から排除され、アパルトヘイトが解除された後の1992年バルセロナ大会にやっと五輪参加が許されています。したがって、 経済協力を経て、北朝鮮の国連制裁、テロ支援国家が劇的に解除されたとしても、北朝鮮の人権問題は、IOC委員から厳しい反対意見が出ることは必定です。まして、日本も拉致問題が全面解決しなければ、賛成できないでしょう。

 なお、立候補都市の激減で苦慮していたIOCは、「アジェンダ20+20」によって、開催都市への財政負担を抑えるため、複数都市、あるいは複数国・地域での開催も可能にしました。そのため招致をためらっていた、インドネシア、オーストラリア、インド、イタリアなどが、続々と手を上げ始めたのです。

 しかしすでに、2032年の五輪開催については、アフリカ大陸が有望視されています。

 実は、昨年10月のIOC総会において、2022年の夏季ユース五輪を、アフリカのセネガル首都ダカールで開催することを決めていますが、その際、バッハ会長は、2032年には、初めてアフリカで五輪が開催される可能性があることを明らかにしています。

 そこにはIOCの歴史的悲願があるからです。周知のように、クーベルタンが自ら作成した、オリンピックの五輪マークは、世界5大陸(5大陸は特定せず、色の意味等は諸説あり)を表し、世界の平和結合を目指しています。

 前任のロゲ会長は、南米大陸で初めての五輪開催を決定しました。そして、残されているのがアフリカ大陸です。ですから、アフリカ開催はバッハ会長の悲願でもあるのです。だからこそ、ユース五輪を誘導して、五輪開催の可能性をアピールしたのです。

 だからといって、朝鮮半島の統一五輪を、絶対無理だと言っているのではありません。これからも、五輪が平和統一の一里塚になるよう、IOCは、2032年以降に期待を煽り続けるのではないでしょうか。

 現在のIOCは、国民の支持率を最重視しています。現在の韓国と北朝鮮の経済力の差から、韓国国民から五輪の財政負担のバランスで不満が高まることは想像に難くありません。したがって、南北統一構想のプロセス段階において、IOCが開催地と認めることは、あり得ないと思います。