新型コロナウイルスへの対策は、新たな展開に入っています。

 その中、2月25日に、IOC委員のディック・パウンド氏が、東京五輪・パラリンピック大会の開催是非の判断は、5月下旬頃とAP通信に話したことが、日本国内に大きな波紋を投げかけました。

 一方、バッハ会長は間髪入れず、IOCの見解ではないと否定したことで、日本の組織委員会や東京都、政府も否定する騒動になったことは周知のところです。

 ところで、なぜ、この時期に、最古参のIOC委員がこのような発言したのでしょうか。パウンド氏の人柄や影響力、バッハ会長との関係などが、盛んに詮索されています。

 IOCという組織は、元々、特権階級・貴族のサロンですから、日ごろの意見対立があったとしても、IOCの存亡に関わる問題に対して一枚岩になることは、今回が初めてではありません。

 ですから、意図的か否かはともかく、バッハ会長とパウンド氏は両者とも弁護士であり、暗黙のうちに役割分担していると感じます。

 その理由は、クルーズ船に対する日本政府の対応が、世界中から批判を浴びたことに対して、IOCは危機感を強めたのでしょう。

 あのような国で五輪中の危機管理ができるのかという風評被害につながることを懸念したパウンド氏が、自ら東京五輪の中止・変更の可能性に言及して、日本政府を暗に批判したと解しています。

 水面下では、バッハ会長と連携を取っていたとしてもおかしくありません。

 しかし、五輪開催に何らかの計画変更を余儀なくされる可能性に、日本の関係者は、戦々恐々としているのは想像に難くありません。あのマラソン競技を札幌にいきなり移転させられたときも、IOC内部はほとんど一枚岩でした。

 では、どのような計画変更が予想されるでしょうか。

 まず、開催中止も時期を秋期にずらすことは、パウンド氏も明言しているように、放送権料確保のため絶対にあり得ません。では、翌年の夏期に伸ばすことは可能でしょうか。橋本五輪大臣が、選手がかわいそうだといいましたが、IOCは、全選手が一律に変更させられることは、平等・公平に違わないとの考えがあります。

 しかし、これも放送権を差配する「五輪放送機構(OBS)」が難色を示すと思いますが、若干の可能性はあります。もし、世界的なパンダミックが終息せず、世界の選手が出場辞退になれば、さすがにIOCは開催を強行できません。もし延期があるとすれば、1年延期の可能性を検討しているIOC委員はいるのではないでしょうか。

 終息に向かいつつも五輪開催を世界が納得しない場合は、今年の開催計画に様々な変更をIOCが提案してくる可能性があると思います。

 その第一は、前々回に書きましたように「無観客試合」の断行を押し付けてくることです。すでに国内のスポーツ大会でも「無観客試合」は当然のように行われていますが、五輪でも来日する海外選手が、最も希望するのが「無観客試合」でしょう。これだけは放送権取得者にとって、テレビやネットの需要が高まることから反対する理由はありません。

 次は、競技や種目の一部中止の懸念です。特に、柔道、レスリング、ボクシングなどの濃厚なコンタクト競技は、参加選手が激減すれば中止になる可能性がないとは言えません。さらに、邪推すれば、アメリカ国民の興味低いコンタクト競技を、五輪放送機構が米国を忖度して中止にする懸念は残ると思います。

 また、一部競技の開催国を変更することも、時間的に難しいだけでなく、マラソンの国内移転と異なり、日本が認められないと猛反発するだろうし、さすがにIOCも提案できないと思うのですが・・・。

 今後も、新型コロナ対策の進捗によって、様々な憶測が飛び交います。日本側もIOCの判断待ちではなく、IOCに情報提供して積極的な提案をしていって欲しいと願います。

 ただ1点、強く懸念をしていることがあります。

 それは、バッハ会長が、マラソン競技を突然札幌に移転すると表明したときのやり方です。その数日前まで、東京都の暑さ対策を評価しておきながら、ドーハでの世界陸上の結果を見た翌日に、手のひらを反したように、札幌移転を一方的に通告した手法です。

 いくら、IOCに最終決定権があるとはいえ、同様の手法は使うべきではないと申し入れるべきです。