開会式に垣間見えた思惑!

 五輪開会式の冒頭、いきなりコロナ渦でのアスリートの苦難の道筋が動画的に描かれました。

 今回は、これまでのような「祝祭の式典」にするのではなく、新型コロナ感染によって命を奪われた世界約420万人に向けた「鎮魂の式典」にすべきと、以前から主張してきたので注目していたのですが、その期待は裏切られました。【第31編】「開会式を鎮魂の式典に!」を参照

 その演出は、オリンピックが1年延期されたアスリートの苦悶・苦闘だけを誇張して、世界の感染被害者への鎮魂表現は避けたように見えるからです。

 これを憶測すれば、WHOのテドロフ事務局長が立ち会う場面で、今世紀最大の人類の悲劇を演出すると、「中国原因説」を匂わすことになるとして避けたと思われます。

 また、今大会を「復興五輪」と訴えてきたことについても、その演出に注目していましたが、福島、宮城、岩手の3県の子どもたち6人を場内で聖火運びに出演させただけで、特段の演出場面を設定しませんでした。一部マスコミは、夜中に子どもを式典に引っ張り出したことを非難していましたが、問題はそこではありません。

「東日本大震災」からの復興を表現する場合には、どうしても原子力批判に触れざるを得ません。原子力やエネルギー政策問題は、世界主要国の政治的対立に抵触することになるので慎重になったのでしょう。

 さらに、開会式の前にバッハ氏が広島を訪問し、コーツ副会長が長崎を訪れたことは、前編で「IOC側の意向か、組織委の入れ知恵か?」と書きましたが、その思惑が分かってきました。

 結局、オリンピックは平和運動と言っても、政治的対立点に言及することは避けざるを得ないので、被害者への追悼だけに終始するということです。まして、広島・長崎の地で核兵器問題に言及することになればアメリカ批判になります。元民主党の「オバマ大統領」の行動以上はできないということで、もし、現在の大統領がトランプ氏だったら、バッハ氏の広島訪問もなかったと思われます。そのような政治的判断への抵触を避けるのがバッハ会長の行動・言動パターンです。

 なお、2020年東京五輪招致に至る経緯の前に、「長崎・広島オリンピック構想」があったことを覚えていますか。

 実は、2016年の五輪招致を目指した東京都が「リオデジャネイロ」に負けた2008年に、当時の石原都知事は、2020大会に再挑戦するつもりでいたのですが、その前の2009年10月に広島県と長崎県が合同で、「核兵器廃絶」を掲げた「広島・長崎共催のオリンピック構想」を公表したのです。

 特に、長崎県には「長崎誓いの火(長崎が人類最後の被爆地になるとの誓いを込めて、ギリシャ政府から送られた聖火)」があり、加えて「長崎の鐘」と「オリンピック・マーチ」を作曲した古関裕而への思いも交じっていたのかもしれません。

 ところが、当時の開催都市の立候補条件は、1都市による開催となっていたためIOCは認めませんでした。その後に、長崎市が撤退し広島市が単独で「ヒロシマ五輪構想」で立候補しようとします。しかし、当時のJOCは、広島市の都市規模では勝てないことと、東京都の再立候補を知っていたので、広島県の立候補に難色を示していました。そこに2011年3月11日に「東日本大震災」が発生し、市民の反対とも重なり、広島は撤退することになったのです。

 一方、当時のIOCが最も懸念していたのは広島の都市規模ではなく、「核兵器廃絶」がテーマの五輪招致になれば、原爆を投下したアメリカ政府が認める訳がないので、招致都市選考に関わっていたバッハ氏(当時は副会長)が、そのことを覚えていて、今回の来日に合わせて広島を訪れたとしてもおかしくありません。

【訂正】バッハ氏が広島を訪れることについて上記のように書きましたが、実は、東京大会が1年延期に決まる前の2019年12月、国連総会において一度「休戦決議(オリンピック開幕の7日前からパラリンピック閉幕の7日後まで、あらゆる紛争について休戦する)」をしています。その上で今年7月の国連総会において、改めてすべての加盟国に呼びかけるとともに、この期間の初日にあたる7月16日に、バッハ氏が被爆地広島を訪れる方向で調整が進められていました。お詫びして訂正します。

 また、閉会式と重なる「広島原爆の日(8月6日)」と「長崎原爆の日(8月9日)」についても、巧妙な対応が見て取れます。まず、閉会式(8月8日)の翌日は「長崎原爆の日(8月9日)」ですが、閉会式の翌日を「山の日」にする予定でした。しかし、五輪の1年延期により1日ずれたことで、「長崎原爆の日」が祝日になるのは好ましくないとして国会で問題になり、苦肉の策として、閉会式に「山の日」を移動させて、翌日をその「振替休業日」にしたのは周知のとおりです。

 一方、広島市が、大会期間中に迎える「広島原爆の日(8月6日)」に、先日、五輪関係者に黙とうの呼び掛けをIOCに要請しました。そのことを予想していたIOCと組織委員会は、「閉会式」において歴史の痛ましい出来事で亡くなったすべての人たちに対する鎮魂プログラムを入れると公表したのです。

 ということは、おそらく、「世界の新型コロナ被害者」、「東日本大震災被害者」、「広島・長崎の原爆被害者」などを一括した「合同鎮魂プログラム」を、IOCと組織委員会が創作しているような気がします。

 それでいいのでしょうか。「閉会式」の展開に注目してください。