日馬富士の暴行に起因する大相撲の問題は、事件に関する事実認定、処分等が、概ね明らかになってきました。しかし、今後の対策については、まだ議論が及んでいません。

 この時点で申し上げたいのは、「公益財団法人」である「日本相撲協会」の歴史的経緯を踏まえた根本的な議論が、報道等でほとんど触れられていないことです。

 もともと、江戸時代に相撲の興行主だった相撲協会は、寺社奉行の管轄下におかれ、寺社の資金集めを名目とした「勧進相撲」を興行する職業団体として認められます。その経緯の中で、相撲年寄りによる相撲部屋など、現在の制度・組織の原型が生まれたのです。

 その後、大正期に入ると「大日本相撲協会」と名称変更し、旧文部省に、相撲学校の創設、指導者・力士の養成、国技館の運営等の公益事業を提案して、民法第34条に基づく「財団法人」として申請します。
 ところが、これまでの営利的な興行団体が、公益法人になることについては異論が強く、当時は、文部省内や国会で相当の議論が繰り返されます。

 結局は、国会審議でもめた挙句、文化振興団体として寄付行為を整えることで近代化が図られたとして、難産の末、相撲協会は財団法人になりました。
 しかし、その後の相撲協会は、「相変わらず興行に偏っている」と度々の指摘を受けながら、大相撲を、国民が観戦・視聴して勝負を楽しむ人気スポーツにしていくことに執心し、長年にわたりビジネス経営を目指してきたのです。

 その結果、平成18年に国の行政改革の流れを受けた「公益法人制度改革」によって、第二の山場を迎えます。
 新たな法人制度改革とは、これまでの「財団法人と社団法人」が、原則課税の「一般財団」と、税制上の優遇を受ける「公益財団」に分類されることになり、公益性のハードルが高くなったのです。

 日本相撲協会も、当然ながら、期限である平成25年までに、公益財団法人への移行を目指さします。優遇税制や国技館維持のためにも移行せざるを得ないのです。

 ところが、相撲界では、平成19年に力士暴行死、20年に力士の大麻所持、22年に野球賭博、23年には八百長の事件が立て続けに発覚し、大きな社会問題になり非難を受けます。

 このままでは、到底、法人移行は困難だとして、相撲協会は、外部有識者からなる「ガバナンス委員会」を設置し、厳しい提言を受けます。その改革案を何とか受け入れて、相撲界の組織や制度を改革しようとしたのです。
 しかし、年寄株の売買禁止など、受け入れがたい改革に対しては協会内部から異論が噴出し、公益法人に移行しなくても一般法人の方が良いという意見も出るなど紛糾します。

 結局、期限ギリギリの25年9月に、やっと内閣府に公益法人への移行申請を終えて認められますが、その定款では、「我が国固有の国技である相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させ、相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与すること」が、公益目的となります。

 一方、相撲団体には、アマチュア相撲界を統括し、日本体育協会とJOCに加盟している「日本相撲連盟」があり、先行して公益財団法人に移行していました。
 したがって、この両団体のすみ分けも必要となり、協会は「相撲文化の維持継承」が公益であるのに対し、連盟は「純粋な競技団体として相撲競技の普及・発展」が公益の目的としたのです。しかし、今の相撲協会の現状をみて、このすみ分けが理解できますか?

 では、他のプロスポーツはどのような仕組みなっているのでしょうか。
 プロサッカーは、「公益財団法人日本サッカー協会」の傘下団体である「公益社団法人日本プロサッカーリーグ」がJリーグの管理運営を行っています。社団法人とは、会員であるJリーグのクラブで構成される法人です。

 また、プロ野球は、一般社団法人の「日本野球機構」と「日本独立リーグ野球機構」が主管団体であり、アマチュア系では、「日本野球連盟」「日本学生野球協会」「日本高等学校野球連盟」が、すべて公益財団法人となっています。
 この他にも、主管団体が、公益・一般を問わず社団法人になっているプロスポーツは、サッカー・野球のほかに、ゴルフ、ボウリング、ダンスがあり、法人格がない団体には、ボクシングやキックボクシングなどがあります。

 すなわち、大相撲がプロスポーツならば、公益財団法人では無理があり、公益法人の定款通り日本文化の維持継承を主要目的にするならば、現在のプロスポーツ型の試合形式と賞金制度等を変更すべきなのです。
 
 また、土俵上を「女人禁制」にしている理由が何であろうと、それを厳守していることも、大相撲をスポーツではないことを自ら宣言しているようなものです。

 ついでに言えば、なぜ、両国国技館を、2020年東京五輪の女子ボクシング会場にしたのでしょうか。組織委員会や相撲協会は、「土俵の上ではないから問題ない」と言いますが、その相撲の精神文化を伝承するために創設された国技館であれば、都合のよい解釈としか思えません。それとも、IOCが、相撲をスポーツとみていないから問題ないということでしょうか。

 一方で、霞ヶ丘ゴルフ場も、オリンピック競技の運営には全く関係ありませんが、ゴルフの規則ではなく、会場の規約が男女平等のオリンピック精神に反するとして、会場の規約を変えさせられました。両方は大きな差異はないと思うのですが、どうやら私だけの違和感のようです。

 少なくとも、大相撲を文化の伝承に止めるならいざ知らず、スポーツとして認定するなら、土俵上の女人禁制なる制度を厳守し続けることと、アマチュアでは女子相撲も奨励していることと、明らかに矛盾するのではないですか。