2019年6月1日に、東京大会組織委員会は、聖火リレーのルートと、聖火ランナーの募集概要を公式サイトで発表しました。

 その際、日本地図を下地に使ったことで、韓国、北朝鮮が竹島の記載を、ロシアが北方領土の記載に抗議して、削除を求めたことが話題になっています。

 特に、韓国は五輪団長会議の個別会議において組織委員会に抗議を申し入れました。対して、組織委員会の布村副事務総長は、「日本で一般的に使われている客観的な地図を用いている」と答えたといいます。

 いうまでもなく、竹島や北方領土が歴史的に日本固有の領土であることは疑う余地はありません。しかし、現在の日韓関係悪化の中で、この日本地図を公式サイトで使えば、必ず、削除を求めてくることは、火を見るより明らかだったはずです。

 それを承知で、組織委員会は、どのような意思決定をしたのでしょうか。

 第一の憶測として、この対立的問題は、五輪前や期間を通じて、いずれ持ち出されることは分かっていたので、韓国の反発を承知で、早めに意図的に出して様子をみたことは考えられます。

 周知のように、平昌冬季五輪の開会式において、南北合同入場に際し、朝鮮半島全図を統一旗にして行進しようとしたことは、明らかに、五輪憲章が禁ずる政治的主張にあたります。IOCが竹島の地図部分を外させたことは当然の処置だったのです。

 一方、今回の日本国内だけの聖火リレーコースは、日本国民に周知するために、コースを説明する下地に、国土地理院の地図を使ったのであり、国土を主張したわけではありません。聖火リレーを竹島や北方領土でも行うと主張しているわけではないので、政治的主張にあたるとは思えません。

 これが組織委員会の計画的作業であれば、あらかじめIOCに説明をして、理解を得ていたのでしょうか。それどころか、IOCにわざわざ聞くほどでもないと思っていた可能性もあります。なお、今のところ、IOCはこの件に言及していません。

 しかし、私は、聖火リレーのコース説明に、わざわざ正式な日本地図を使う必要はなかったと思います。情報で必要なのはコース順と日程です。どうしても、分かりやすく地図で表示したいのであれば、デフォルメした模式図的な地図で十分だったはずです。

 次に、第二の憶測です。公式サイトの担当部署が、韓国の抗議をまったく予想せずに、当然のように日本地図を使ったのではないかとの憶測です。後日に抗議を受けてから地図を外すわけにはいきませんから、幹部が、あたかも抗議を予想していたかのように、「全く問題ない」と反論したとすれば、ちょっと不用意であり、先が思いやられます。

 韓国は、平昌五輪での統一旗問題を屈辱として、日本への意趣返しを徹底的に探していることは想像に難くありません。したがって、東京五輪の期間中は、政治的対立点を可能な限り避けるべきだと考えるのは、私だけではないはずです。