2013年9月7日、ブエノスアイレスでのIOC総会で、ロゲ(前)会長が「TOKYO」と開票結果をひっくり返したときの歓喜は、いまだに映像で使われています。
 いかなる選挙でも、結果のみが大きく報じられますが、そこに至る経緯は、まるでなかったように忘れ去られてきました。
 もう一度、経緯を確認して、IOCとIOC委員には責任がないのか、考えてみたいと思います。

◎ IOC委員の投票行動
 前回、解説したように、IOCは、委員の行動と招致都市の行動や接触等について、厳しい「行動規範」を示して遵守を求めています。
 その代わり、10人ほどの評価委員会が、各現地を訪れ、長所やリスクを評価して公表しています。
 その評価報告書には、税制、会場計画、環境、治安等の項目ごとに得点化され、IOC委員は、それを参考に投票しなさい、というわけです。
 
 しかし、この評価の結果が、IOC委員の投票行動に反映しているとは到底思えません。
 例えば、2016年オリンピック招致の際の評価は、1次選考を通過した4都市の総合得点を比較してみると、東京、マドリード、シカゴ、リオデジャネイロの順で、東京はトップでした。

 この結果に、東京の関係者は沸き上がったものです。しかし、下記の表をご覧ください。

招致都市       第1回    第2回   第3回
リオデジャネイロ  26票   46票    66票
マドリード     28票     29票    32票
東京          22票     20票
シカゴ         18票
※過半数を超えなければ、最下位都市が脱落する。

 第1回目の投票結果は、マドリードがトップで、シカゴが脱落しました。
 この時に、シカゴに投票した委員は、東京に入れてくれそうだと、勝手に期待したものです。
 ところが第2回目、東京は、なんと2票減らして20票で脱落しました。唯一、票を減らしたのは東京だけです。

 結局、負けた他都市の票を次々と積み重ねて、最終的に66票を獲得したリオデジャネイロが当選したわけです。何と、事前の都市評価が最下位だったリオデジャネイロが勝ったわけです。
 あの評価報告書の意味は何だったのか、疑問が残ったのを覚えています。

 IOCは、評価報告書と投票結果が乖離していたことを受けて、2020年招致活動における評価報告書は、優劣の比較を避け、各都市の長所と課題を記述するにとどめました。
 しかし、基本的に、IOC委員の投票行動には、参考ぐらいにしかなっていない結果が表れています。

 前回に示したように、定員115名のIOC委員は、大陸別に人数がわかれており、その中に、NOC会長、選手、IF会長の代表が、それぞれ15名ずつ入っています。
 委員は、それぞれに帰属する世界を背負っており、当然、評価する視点が異なってくるわけです。
 その上、利害を持たない委員の思惑や、地域別に小グループ化した委員などの投票行動などに、魔の手が伸びることも想像に難くありません。

◎ IOCの責任
 このような、IOC委員による単純な無記名投票方式は、再検討すべきではないでしょうか。
 例えば、評価委員会の評価点を、5票~10票くらいにして加算するとか、評価検討会を公開で行うとか、世界が納得するような選考方法に改善すべきだと思います。

 そうすれば、少なくとも、個人票を金銭で買い取る価値が低くなります。

 また、現在、疑惑の張本人と言われている、前国際陸連会長のディアック氏は、国際スポーツの舞台で汚職疑惑にまみれた人物として有名であり、2011年には、スポーツマーケティング企業から裏金を受け取っていたとしてIOCから警告処分を受けたとされています。

 IOCは、このような疑惑のあったIOC委員を警告程度で済ませて、ロシア選手のドーピングを裏金で隠蔽していたことが表面化するまで知らなかったというのは、監督責任が問われて当然でしょう。対象者を永久追放するだけでなく、世界に向けて謝罪すべきではないでしょうか。