1年延期の五輪にむけた、IOCの思惑は!

 日本国中で、新型コロナ対策に明け暮れている最中、IOCバッハ会長は、着々と手を打ち始めています。

 五輪・パラ大会の1年延期による追加経費の分担について、前回の【第16編】で述べたように、組織委員会は、国内向けにIOCにも相当の追加経費を負担してもらうと言い続けてきました。このコロナ対策が収まるまでは、経費問題は休戦状態にしておきたいとIOCにメッセージを送っているのに、IOCの視線は、世界のスポーツ関係者に向かっています。

 5月14日のIOC理事会後に、バッハ会長が、「我々の役割と責任のために最大8億ドル(約860億円)を用意する」と話し、そのうち、6億5千万ドル(約700億円)を延期費用に、1億5千万ドル(約160億円)を競技団体や各国NOCの援助にあてると先手を打って、日本の組織委員会とは相談せずに、充分な援助であると自信を持って発表したのです。

 あわてた組織委員会は、現段階で一方的に言わないでほしいという意味で、今回も「協議していない」と反発しました。3千億円以上ともいわれている追加経費のうち、たった700億円しか分担しないと、日本国内に伝わるのは、マズイと思ったのでしょう。

 さらに、5月16日には、バッハ会長はWHOのテドロス事務局長と覚書を交わして、来夏の東京五輪開催の可否判断は、WHOの助言に委ねると公表したのです。これには驚きました。おそらく、バッハ会長は、テドロス事務局長をうまく使って、完全実施の懸念などを発表させようとしていると思われます。まさに責任回避です。

 さすがに現段階で、組織委員会はこの覚書に反論するわけにはいきませんが、IOCは、WHOを傀儡にして、自分たちの意向を代弁させるのではないかと、危機感を覚えていると思います。

 バッハ会長は、5月20日立て続けに、2021年開催が「最後のオプション」と安倍首相から伝えられたと明かして、来年の開催が無理なら中止になると、一方的に公表しました。

 またまた、組織委員会の武藤事務総長は、安倍首相が「最後のオプション」という言葉を使った記憶はないと否定し、中止に関しても、組織委員会とIOCで共通認識はしていないと反発します。しかし、組織委員会の森会長が、安倍首相と「再延期はない」ことを、すでに確認したと明かしていますが、それを問われた武藤事務総長は、森会長は「そのぐらいのつもりで準備したい」と強調していただけとフォローするわけです。

 相変わらず、漫才のボケとツッコミのようなやり取りが続いています。

 さらに今度は、5月20日、コーツ調整委員長が畳みかけるように、来年に開催ができるかどうかを評価する時期は、10月頃になると発言します。コーツ氏は、数万人が世界中から集まる五輪では、新型コロナのワクチンが開発されても、十分な量が世界中で確保できなければ開催は難しいと、これまで開催条件とワクチン普及の関係について、バッハ会長も言及してこなかったことを代弁したのです。

 この主旨は、安倍首相が言った「完全な形で」できるかどうかを10月頃に見極めて、厳しいなら、様々なアレンジ案を準備するには一定の期間が必要という意味だと思います。例えば、無観客試合や観客削減、コンタクト競技の縮減、入国者制限、選手村分散など、「完全ではなくても」開催できる案を提案してくる可能性があります。

 IOCのトップメンバーたちは、見事なチームプレイを発揮します。彼らは、「オリンピック憲章」を都合の良い時だけ便宜的に引用しますが、所詮は、リアリスト(現実主義者)だとつくづく実感しています。